【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年｜リアクション

【お正月】めでたや初春、猫の島の犬の年

〇霊界の年始客たち

　霊界にある狐の妖怪たちが住む片夏村。
　村長の娘、片夏阿呂江は新年から訪問客の相手に翻弄されていました。
「ふー、今日何度目の客の見送りじゃろう」
　年明けから村長である父に挨拶をとあやかしがひっきりなしに来ているのです。
「儂が寝ている間は父上が寝ずに応対してくれていたが……今の父上は幽霊、そこまで疲れることも無いのかもしれんな」
　
「阿呂江さま、管狐が戻りました」
　狐のあやかしであるお手伝いさんが報告します。
「お、戻ってきたか」
　お客を迎えるのに家を離れられないので、管狐たちを挨拶回りに出しているのですが、そのうちの１匹が何やら大きな荷物を背負ってきました。
「よしよし、頑張ったの。寝床でゆっくり休め」
　疲れている様子の管狐を撫でてやり、風呂敷を開けてみると。
「えーっと、これはいつも頼んでいる花緑青駅の和菓子屋からか。挨拶に行った管狐に新作を持たされたようじゃ」
　ありがたいですが、もらいっぱなしというわけにもいきません。
「一旦箱はここに置いて、また礼を伝えにいかなければな」
「阿呂江さま、お茶をどうぞ。少しはお休みになられたほうが」
「そうだな……菓子の感想も伝えたほうが良いじゃろうしの」
　
　キンコーン。
　菓子に手を伸ばしかけたところに呼び鈴が鳴り、阿呂江は思わず声を上げます。
「また来客か！　今度は何じゃ！」
　ぼやきつつ戸を開けると。
「どうも、年賀状です」
　なじみの郵便屋が、山のような年賀状を持って立っていました。
「ああ、ご苦労様」
　ずっしり重い年賀状を受け取り、阿呂江は思わずため息をつきました。
「去年もらった分は送ったつもりじゃったが、それにしても父上宛てだけで100枚は超えているぞ……手が空いている者がいたら年賀状の仕分けを頼む」
　とても読み切れないので、お手伝いさんたちに仕分けを頼みます。
「送っていないところから届いていたら別でまとめておいてくれ」
　喪中のはずですが幽霊としての父は元気なので、あやかしの世界では欠礼というわけにもいかずややこしい限りです。

　そんなこんなで3日の夜にようやく客足もなくなり落ち着いて。
「菓子の味もようわからんかった……ああ、ようやくしっかり眠れるわ……」
　起こすでないぞと念押しし、阿呂江は寝所へ向かいました。
（疲れが取れたら、のんびりどこぞへ遊びにいきたいものじゃのう……）
　寝落ちる寸前に、そんな思いが阿呂江の頭をよぎったのでした。　

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