授業風景～２年体育科の場合～｜リアクション

授業風景～２年体育科の場合～

　簡単な準備運動の後、ペアでの柔軟が始まった。
「桐野ー柔軟しよーぜ！」
　冴木に声をかけられた桐野が首をかしげる。
「冴木？　お前遅刻組みじゃないじゃんか」
　ペナルティを課せられた遅刻組みは一箇所に纏まっていた。遅刻せずきちんと整列していたはずの冴木がどうして、と首をかしげる。
「本日四回目のプロポーズをしたらまゆ先生のためにグラウンドを走る特権を手に入れたんだ！」
　ちなみに三回目は点呼の返事、四回目は貴方と柔軟したい、だったことをここに報告しておく。
「あー……うん、背中押してくれ」
　ツッコミ役を放棄して背を向けると、心得た冴木が的確にアシストしてくる。
　さすが陸上部同士。
　体育科の生徒は運動部に所属しているものが多い。準備運動やストレッチの重要性はよく解っている。
「せっかくの体育だもの、楽しむぞー！　怪我や遅刻なんてもったいない！」
　佐々寿美礼が元気いっぱいに微笑む。
「そうだな。授業で怪我、というのも笑えんし」
　その背を押してやりながら楪が頷く。地面に座りつま先を持った姿勢で佐々がそうだねー、と同意する。
　隣では、高身長同士で組んだ内藤武諭とティナ・フォルトゥスのペアも真面目にストレッチをしている。
「無理をしていないか？」
　いくら身長が同じくらいとはいえ、女子の相手で、内藤はおっかなびっくりだ。
「無理も何も……もっと押して平気よ？」
　開脚して側筋を伸ばしながら、ティナは不満げだ。騎士道精神を重んじる紳士（を目指している）内藤としては力加減その他色々気を使う。不手際があっては困る、と自然遠慮がちになってしまうのだ。
（と、言われてもな……）
　どうしたものか、と悩んでいると、ティナが振り返った。
「ちゃんと手伝ってくれないと、困るわよ」
　しっかり準備運動をしないとそれはすなわち怪我につながる。体育科に属する面々にとって体は資本だ。
「解った。すまない」
　それは内藤にも理解できたので、こくりと頷くとぐっと背を押す手に力をこめた。

「お、お前あいてるのか？」
　赤い目をにやりと細めてナイト・レイヴンが服部剛の後姿に声をかける。
「ん、俺？　あいてるでー」
　振り返った服部はひらりと手を振りながらナイトに近づいた。
「んじゃ、俺と組もうぜ」
「ほな、よろしくなぁ」
　地面に腰を下ろしたナイトの背を服部が押してやる。筋肉質な体がぐんっと前に伸びて、指先はつま先をこえ地面を触る。
「ほぉ～ごついのに柔らかいなぁ」
　服部が感心する。
「へへっ。鍛えてるからな」
　褒められたナイトは得意げだ。
「部活でも入ってるん？」
　服部自身、体育科に所属しているが特定の部活には入っていない。鍛えている、と言うからには何かしているのだろうと水を向ける。
「いや、そういう訳じゃねーな。バイトがてらに体鍛えてたらこうなった」
　入れ替わってナイトが服部の背を押す。
「なんやもったいないな。どっか入ったらええのに」
「ん、勧誘か？」
「いやいや、俺も部活は入ってへんのやけど」
　なんだそれ、と背後でナイトが笑う。

　わいわいとお喋りしながら準備運動をしている面々を、まゆ先生の隣で眺める久坂の頬がつまらなそうに膨れる。
　少しくらい……と、まゆ先生の目を盗んでストレッチを試みる。
「日和君？」
「……はい」
　前を向いたままのまゆ先生がにっこり笑う。
「だめよ？」
「はい……」
　準備運動は滞りなく終了した。

　
　

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