Thank You for Loving Me｜リアクション

Thank You for Loving Me

　会話に花が咲いた、とは言わない。
　しかし途切れ途切れながらも、旧交を温めるに十分な言葉が交わされ時間が流れた。
　合間を満たすのは上質の音楽、それに酒だ。
　このふたつさえあれば、人生なんとかなるものではないかと静は思ったりもする。
「ところで」
　ずっと気になっていた様子で、リックは視線を滑らせた。
　カウンターの一番奥に一席分だけ、ぽつんと札が立てられているのだ。
「あの席、『reserved（予約席）』の札が置かれているが、誰か来るのか？」
「ああ、あの空けてる席は俺が勝手に予約しといたんだ」
「なるほど」リックは少し面白がるような目をする。「いつ来てもいいように、ってことだな」
「うちのお客さんでね」しかし静の表情は、明るいとは言いがたかった。「面白い娘（こ）なんだが、しばらく来れてないんだ。……病院に酒作りに行くわけにもいかないしな」
　リックはそれだけである程度察したらしい。
　入院は長いのかとか、病気は何かとかは口にせず、単刀直入に訊ねた。
「退院、できそうなのか」
「わからない」
　苦い液体に唇をつけ、「だからあれは」と静は告げる。
「願掛けみたいなもんだよ」
　
　

　――『Thank You for Loving Me』　了

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