心をこめて、詰めこんで｜リアクション

心をこめて、詰めこんで

【ひとつめの箱】

　ガラス戸を開け放す。暮れかけの赤い日を帯びながら、ふたりはしばし風に吹かれるにまかせてたたずむ。
「喜んでもらえてよかったね」
「うん。よかった」
　メアリは仕事へ戻っている。今日ばかりはもう休んでもいいとウォルターも言うのだが、片付けやらなにやら残っていると安心できないし、なによりそうして忙しく立ち働いている瞬間にこそ充実と己の輝きを感じるのだと彼女は語った。とはいえほどほどにして、さっそく贈り物で書き物に没頭させていたきますとも言っていたし、去ってゆく足取りは心なしか弾んで見えた。
　１２月の寝子島はいささか冷える。自然と寄り添い、たがいの体温を交換する。

　年末の一大イベント、クリスマスも過ぎ去って、あとは年が明けるのを待つばかりだ。
　柚春は思う。これから幾度、こんな冬を過ごすだろう。この先幾度、彼と新しい年を迎えるだろう。
「どうしたの？　なに考えてるんだい」
　気がつけば整った鼻がすぐ目の前にあった。いたずらっぽくきらめく瞳も。心といっしょに柚春の肩もぴくりと弾む。
「……ウォルターさんが、僕の先生で良かったって。僕の好きになった人が、ワットで良かった……って。そう思ってた」
「ふぅん。そう、それだけかなぁ？」
「えっ、それってどういう……わ！？」
　くいと腕を引かれ、柚春の身体は彼の胸の中へとすべり込む。
「わ、ワット？」
「そうあまり、無防備な顔ばかりさらすものじゃないよぉ。どこかのワルい大人に食べられちゃうからねぇ」
　彼の前で見せる弛緩した笑顔に、柚春自身はどうやら無自覚であるらしい。昨日の余韻もあってか、ことに今日の油断っぷりは隙だらけのユルユルはなはだしく、こうしていともたやすくすっぽりと抱えられてしまった。
「わ、わ……」
　徐々に近づく彼の端正な男前。みずみずしい唇。吐息の熱さ。柚春の心臓は鼓動を打って跳ね回る。
「あ」
　ぴたり、ウォルターは動きを止めると身体をこわばらせた。柚春の肩を包まんとしてか中途半端に伸ばした手が、わきわきと宙をかく。
　振り返ると、紅茶のおかわりを持ってきたメイドさんが、微妙な表情でこちらを見つめていた。
「ああ、これは困りました。柚春さまが成年されるまでは、と諌言差し上げるべきでしょうか？　わたくしも大切な主人に職を失ってほしくはありませんし、いいえしかしながら本日はあんなにも素敵な贈り物で使用人を労っていただきました。ここは曲げて、見て見ぬふりをすべきでしょうか」
「あ、はい。うん、分かりましたよぉ」
　ウォルターが聞き分けよく柚春をすとんと椅子の上へ下ろすと、メアリはにっこりと微笑み、ふたり分の紅茶をカップに注いだ。
「柚春さまも」
「は、はいっ」
「授業に熱心なのも、ほどほどになさいませね」
　イギリス式のウィットを利かせたジョークだろうか。彼と並んで柚春も、苦笑いを浮かべてお茶をにごした。

　これから幾度、こんな冬を過ごすだろう。彼とともに、メアリへいくつの箱を贈るだろう。
　焦ることはないのだ。ゆっくり、ともに歩んでゆけばいい。
　少し冷たい風に身を磨かれて、背に彼のぬくもりをより深く、あたたかく堪能した。

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あとがき

担当マスター：墨谷幽
ファンレターはマスターページから！

　墨谷幽です。『心をこめて、詰めこんで』、リアクションをお届けいたします。

　ボクシングデー、初めて知りました。拳闘記念日？　との反応はむしろ墨谷のイメージでしたけれど、調べてみればなんて素敵！　海外にはこんな日があるんですね。
　今はやや下火になりつつあるそうですけれど、残していきたい伝統ですね。

　それでは、今回はプライベートシナリオにご指名いただきまして、ありがとうございました。
　よろしければ、次回のシナリオでもお待ちしております～。
　お疲れさまでした！

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