12月も半ばを過ぎた、寝子島へ冬も深まるとある日に。寝子島高校の教員準備室には
ウォルター・Bひとり、これ幸いとやってきて弁当を広げた
稲積 柚春と昼食をいただきながら談笑に興ずる、そのさなかのことだった。
そーそーそういえば、とウォルターは英国紳士らしからぬ所作で箸をついと振り、26日がさあ、と言った。
「ボクシング・デーなんだよねぇ」
「ボクシング? ワット、リングデビューするの?」
柚春の純朴にすぎる解釈がツボに収まったらしく、彼はひとつ目を丸くし、ほどなく吹き出して爆笑した。
「……なに? そんなに笑わなくても」
「あっはっは! いやぁごめんごめん。ボクシングデーっていうのはねぇ」
ボクシング・デー。拳闘記念日、ではない。キリスト教に由来するイギリス伝統の休日だ。クリスマスの翌日、教会の神父らが貧しい人々への寄付を広く募り、プレゼントを箱詰めして贈ったことに起因する。つまりboxing dayとは『クリスマスボックスを開ける日』を意味するのだ。転じてイギリス紳士が執事やメイドなど使用人に暇を与え、また箱入りのプレゼントを贈り、日々の労をねぎらう日でもあるとのことだ。
なおスポーツのボクシングとは特に関連がない。
「へぇ……そうなんだ」
ちなみに歳末のバーゲンセールをも指すが、近年はアメリカ由来のブラック・フライデーがとみに普及し、クリスマス商戦の名目としてのボクシング・デーは不振の一途をたどっているそうである。
などといううんちく混じりにウォルターが語ってくれるのはつまり、日頃お世話になっている彼女のことであろう。柚春も察した。
「メアリさんになにかお礼がしたい、と」
「そんなとこ」
メアリ・エヴァンズお手製の、今日は和食弁当らしい。いろどりよい卵焼きを口へ放り込みながら彼はうなずく。
ウォルターの祖母の代からブラックウッド家に仕えているというのだから、筋金入りだ。完璧なるメイド、その理想や矜持を素で体現する彼女、メアリの敏腕・辣腕ぶりは柚春も目にしているし、ウォルターならば言わずもがな。15年来星ヶ丘の自宅の管理を任せて、というより丸投げしているのだから、彼女にはめっぽう弱く頭が上がらない。加えて聡明、主人やその縁者についてはなにかと気がつくし、その気づかいようにしても実にさりげなく慎み深い。それになんといっても優しく温厚篤実、誰から見ても好ましい人格者である。
ウォルターが折にふれて彼女への礼を尽くし、こうして謝意を忘れないのも当然のことなのだ。
ふむ、とランチボックスから取り上げた鶏のごま香り揚げをさくりほおばり、
「それで、なにをプレゼントするの?」
「そこなんだよねぇ、難しいのは」
昨年はメアリの好きな銘柄の紅茶の詰め合わせを贈ったが、基本的には己の思う美味を主人に味あわせたいというメイドの鑑なので、ほとんどはウォルターに振る舞われたそうだ。
「だから今年は、なにか形に残るものがいいと思ってるんだけどねぇ」
「じゃあ、探しにいこうよ!」
不意に立ち上がり瞳を輝かせた柚春を、ウォルターは呆けたように口を開けて見上げる。
「メアリさんにぴったりのプレゼント、見つけにいこう!」
「いこうって、どこへ?」
こくり、首を45度に傾ける。ことさら当てがあったわけではない。それでもほかならぬ彼にとって大恩ある、偉大なるメイドさんへのプレゼントだ。ぴったりな一品を見つけたいではないか。
柚春は、力強く笑ってみせるのだった。
「どこへでも!」
墨谷幽です。よろしくお願いいたします~。
稲積 柚春さん、プライベートシナリオの申請、まことにありがとうございます!
アクションはガイドのイメージによらず、どうぞご自由におかけくださいませ。
このシナリオの概要
ブラックウッド家のメイド、メアリ・エヴァンズさんのためのクリスマスプレゼントを用意し、
その過程でウォルター先生とデートもしてしまおう、といったお話になります。
最後に少し、ボクシングデー当日、メアリさんがプレゼントボックスを開封する様子も描ければ、
と思っております。
おおむねそのような感じですが、特に決まった筋書きはありませんので、
街へ繰り出したりネットショッピングで掘り出し物を探したり、メアリさんにどうにか探りを入れてみたり、
どうぞご自由にお楽しみください~。
ちなみに、ウォルター先生からの情報をいくつかご紹介。
ヒントとして参考にするもよし、柚春さんのセンスでビビッときたものを選ぶももちろんよし、です。
★メアリはうんと若い頃、写真を趣味にしていたらしい?
★児童文学を読むのが好きだが、どうやら自分でも書いてみたいと思っている、っぽい?
★キッチンに新しい調理器具を入れたいらしいけど、さて、どんなものが欲しいのだろう?
NPCについて
NPCは、登録済みのキャラクターでしたら誰でも登場可能です。
また、墨谷のシナリオに登場したNPCでしたら、登録・未登録問わず登場OKです。
ただし、不自然でないシチュエーションに限ります。登場が難しい場合もありますので、ご了承ください。
こんなNPCと絡んでみたい、なんてリクエストがありましたら、お気軽にご指定ください。
細かく指定もOKですし、マスターにおまかせもOK。
Xキャラクターも登場可能です。
口調などのキャラクター設定は、アクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
以上になります。
それでは、ご参加とアクションをお待ちしております!