【大晦日】猫の島がわんわんわん！｜リアクション

【大晦日】猫の島がわんわんわん！

先生犬と教え子たち・その２

　神社の見回りという名目で桐島義弘先生と二人になることに成功した宮祀智瑜は、先生の腕をぎゅっと抱きしめながら歩いていた。
「宮祀……そんなにくっつかなくても」
「人が多いんですから逸れないようにです」
　そう言い訳して智瑜はさらにくっつく。
　と、急に、桐島先生のしっぽがぶんぶんと揺れた。
「義弘先生ってば……、そんなに嬉しかったですか？」
　頬を染めて桐島先生を見上げた智瑜であったが、先生の視線の先には――。

「ワンちゃんみたいになってるせいか、匂いが美味しく感じられますね……
それに屋台の調理の音もなんだか心地よいです♪」

　足どり軽く食べ歩きしまくっている巫部紫苑の姿があった。
　本人その気はないのだが、男性の視線をくぎ付けにするナイスバディである。
（男の人ってこれだから！）
　宮祀はほっぺたを膨らませると、義弘先生の耳を強く引っ張って、紫苑の動線から先生を遠ざけた。
「義弘先生、休憩も大事だと思います！　あ、ほら、甘酒！　美味しそうですよ。団子も！」
「お、おう？」
　たしかに甘酒はあったまるし、団子も美味しい。
「美味いな」
　と先生も喜んでいるのがしっぽでもわかる。
　でも――ちょっとだけ嫉妬心だ。
「……胸だったら、私も負けてませんから」
「な、なんだ急に」
「寒くなったら言って下さいね。抱きしめて温めますから」
　語尾にはもちろんハートマーク。
　素直な先生のしっぽはどんなふうに反応するだろう。
　期待を込めて義弘先生のしっぽを見つめると、先生はハッとして自分のしっぽを抱え込んだ。
「あっ、ずるいです。動くのがわからないようにしましたね」
「そう簡単に本心を知られてたまるか」
「もう……そんなしっぽにはお仕置きです。一回もふってもいいですか？」
「え、わ、うわああっ」

◇

　食べ歩きつつ本殿のほうまで歩いた紫苑は、折角だからと初詣も済ませた帰りだった。
（今年も、美味しいものを沢山食べて、楽しい一年でありますように……）
　そう祈って、折り返しの食べ歩きツアーを始めようと思った矢先、叫び声が耳に届きあたりを見回す。
　そして宮祀に容赦なくしっぽをもふられる義弘先生を見た。
「……あれは。桐島先生でしょうか。なんだか楽しそうですね」
　まさか自分が微妙に嫉妬の対象になったとは夢にも思わず、微笑ましいです、と笑みを浮かべる。
　そんな彼女の足元を、とっても可愛い黒の柴犬が項垂れながらすり抜けるようとしていた。
「くぅん」
「あら、何やら困った様なワンちゃんが……どうしました？」
　声をかけてみると、どうやら七夜あおいの弟で、受験の合格祈願しにきていた七夜ソラであるらしい。あおいはソラにここで待つよういいつけて、事件の解決に向かってしまったのだという。犬になってしまったソラは、頼りの姉もいなくなって、どうしたものかと困っていたのだ。
　紫苑はソラの前にしゃがみ込むとお土産用に買っておいた屋台料理を広げた。
「お腹が空いているなら、一緒に食べますか？」
「えっ、いいんですか？」
「大丈夫ですよ～どうせ帰りながらまた食べたり買ったりするんですから♪」
「うっうっうっ、お姉さんなんてやさしい！　うちの姉とは大違い……いや、そんなこと言ったら怒られるな。ありがとうございます」
「遠慮なくどうぞ～」
　誰かがおいしそうに食べるのを見るのは楽しい。
　空腹だったらしいソラが、男子中学生の勢いで食べるのを、紫苑はにこにこと見守っていた。
　