【大晦日】猫の島がわんわんわん！｜リアクション

【大晦日】猫の島がわんわんわん！

プロローグ

　大晦日。
　といえば、皆さんは何をして過ごすだろうか。
　一年の計で普段は触れないような場所にはたきをかけたり、久々に実家に帰省したり、逆に帰省してくる家族の出迎えのためにおせち料理の下拵えをしたりしているだろうか。

　日も暮れてもうすぐ紅白も後半戦が始まろうかというころ。
　万条幸次は、飼い猫の花遊を抱っこして、寝子島神社の境内へ続く石段を登っていた。
　もちろん年末年始のお参りのためだ。
　と、その途中で、急に花遊を抱く腕にずしっと重い衝撃を感じた。
「な、なんだ……！？」
　よっこらしょ、と花遊を地面に下して確認すると――。
「うわっ、花遊どうしちゃったの？　きみって白黒の猫だったはずだよね！？」
　ところが今の花遊の姿ときたら、どう見ても。
「白黒のボーダーコリーだよ！」
　そりゃ重いわけだよ……と嘆息した幸次の耳に、年上の青年の声が聞こえてきた。
「そう言うお前も犬になってるぜ」
　見れば、自分もの足元も、黒になんとなくの虎柄っぽい模様の犬の足になっているではないか……！
「甲斐犬だこれ！　って、犬だけどしゃべれる！」
　喋れるのは自分だけではない。先ほどの声の主は、犬になった花遊である。
　幸次は花遊と顔を見合わせる。そういえば花遊も、犬になっているけれど喋れているではないか。
「こりゃあまた神魂の影響かな。可笑しなことが起こってるね」

　周りをみると、他の人や猫たちみんな、犬だったり、犬耳だったり、とにかく犬化しているようである。
「わ！　毛が、犬の手だ！　おお！」
　自分の尻尾を追いかけるようにしてぐるぐる回っているのは、黒と白のシベリアン・ハスキーになった桜井ラッセルである。元のラッセルと同じ青い瞳を輝かせて、ぐるぐる何周もして、とっても楽しそうだ。

　お三夜さまに年越しのご挨拶に訪れていたシオ・レイゼルオークとハルキ・イエハナも、お互いの頭に生えた犬耳をみて、互いに本物か撫でてみている。シオとハルキは、幸次やラッセルのように完全に犬になったわけではなく、もともとの人の姿に犬耳が生えた、いわゆるケモ耳姿だ。
「ふふ、ハルってば、犬耳似合います」
「シオさんこそ……ってそんなことを言っている場合ではないね。お三夜さまに何かあったらしい」
「そうですね。狛猫さんたちに話を聞きにいきましょう。……あれ、猫が犬になっているなら……狛犬さん？」
「うーん、ややこしいね」
　緊急事態なのかもしれないが、シオとハルキは思わず微笑みあってしまう。

　午前０時の年変わり時に近づけば近づくほど、年越し参拝の客は増えるはずである。
　境内にはすでに多様な屋台がならび、その時を今か今かと待っている。
　その陰で事件も起こっているみたいだ。
　寝子島神社は騒がしい夜を迎えようとしている。
　――みんな、犬になって。

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