【大晦日】猫の島がわんわんわん！｜リアクション

【大晦日】猫の島がわんわんわん！

「I wish you a happy new year!!!!」

　ミラーボールが回り、暗い店内に星が散る。
　水着姿の女性キャストとたくさんの客たちの歓声が交じり合って、狂瀾のゲヘナの様相を呈している。
　ここは、木天蓼市内の水着ガールズバー『ジュエル』。
　真境名アリサの勤め先は、今夜は年越しイベントということもあって乱痴気騒ぎの真っ最中だ。
　アリサは若い身ながら業績を認められ、『ジュエル』の副店長を務めている。
（年末年始はクリスマスや正月で超多忙だけど、今は全力で突っ走らないと）
　稼ぎ時。一言で言えばそういう時期だ。
　年明けには一段落出来る。それだけを念じてゲヘナを制する。それが仕事だ。

　ガールズバーとキャバクラの違いが分からない人も多いと思うので説明しておこう。
　席について接客するキャバクラとは違い、基本的にガールズバーはカウンターの中で仕事をする。お客さまの隣に座ってお酒を飲むのでははく、あくまでも「バーテンダー」に徹するのがガールズバーの特徴だ。カウンターの中にいて、基本的にはおさわりなしで、女の子とお話したいというお客様の要望を満たす。それがガールスバーキャストとしての矜持である。
　アリサも例外ではなく、真珠のように光沢のあるビキニを今宵の仕事用の戦闘服と位置づけ、カウンターの中でカクテルや水割りを作ったりしている。
　お金のために簡単に水着になっているとは思わないでもらいたい。水着が映えるようにプロポーションを整えるのも仕事のうちと、アリサはじめキャストの女の子たちは皆、ボディメイクに余念がないのだ。
　そして、客も鼻の下を伸ばした男性ばかりではない。
　女性や、女性カップルもいる。
「アリサちゃん、踊ってくれない？」
　そう声をかけてきたのは、長年通ってくれている女性のひとりだった。素性は知らないが、どこかの社長さんのような気がしていた。いつも素敵な身なりで、真っ赤なルージュをさっと引いている。男性だったり女性だったり、そのときによって連れは違うが、今夜は一人のようだ。すこし落ち込んでいるようにも見える。会社か家庭で何かあったのかもしれない。
「アリサちゃんの踊り、好きなの。恰好いいから。女性の尊厳がそこにある、って感じがするのよね」
　そう言って彼女は、店のフロア中央にあるポールダンスのステージを見た。
　女性の尊厳。
　その言葉が気にいって、アリサはにこりと微笑んだ。
「そうね、踊りましょう。年の瀬ですもの。踊って全部忘れましょ」
　
　先日この『ジュエル』で行った企画でポールダンスを披露したのがＳＮＳでバズり、アリサはポールダンサーとして自信をつけてきていた。今夜のようにリクエストされて披露することもあれば、気が向いた時に自分からステージに立つこともある。もともとダンスは得意だったが、ポールダンスとなるとまた違う筋肉、違う体力を求められ、地上で踊ることの何倍もハードだ。難しいことを難しいように感じさせず、むしろ妖艶にこなす。アクロバティックな要素もあって技術のいることだが、難しいほど無になれて、独特の快感すらある。
　流れ出す激しいダンスビート。
　アリサはポールに纏わりつく。
　水着ガールズバーだけあって、店内の温度は高めに設定されている。
　動くと噴き出す汗。
　しっとりと濡れゆく肢体。
　アクロバティックで妖艶なダンスを披露していると、年越しのカウントダウンがはじまった。
「１０……９……８……」
　客たちのカウントダウンの声にに煽られて、アリサはますます煽情的に身体をくねらせる。
（嫌なこと、忘れられた？　持っていかなくていい。全部、過去に置いていこう）
　昇りつめたポールの高み。
「３……２……１！」
　アリサは事切れたように身体をのけ反らせる。