【大晦日】猫の島がわんわんわん！｜リアクション

【大晦日】猫の島がわんわんわん！

ホテル業はてんてこまい

　ここからしばし、舞台を寝子島神社の外の、フツウの大晦日に移そう。
　まずは、絢の従姉で恋人の真優理さんこと、星ヶ丘の超高級ホテル「ステッラ・デッラ・コリーナ」のコンシェルジュ・水谷真優理の大晦日の朝へ――。

　起床は六時前。シーサイドタウンのマンションの自室はまだ暗い。隣ですやすやと寝息を立てている絢の頬へ軽くキスを落すと、ベッドをそっと抜け出し、朝食を済ませて身支度を整える。職場である「ステッラ・デッラ・コリーナ」に午前７時過ぎに出勤すると、すぐに制服に着替えてコンシェルジュデスクへ。こで夜勤担当者から宿泊客のスケジュール確認、情報共有を行う。
「３０２号室の鈴木様、奥様が車椅子とのことでお手伝いが必要だそうです」
「はい」
「それと６１５号室に連泊の田中様、昨夜から体調がすぐれず病院に行きたいということでしたので、連絡があれば手配お願いいたします」
「かしこまりました。本日ですと開いている病院が限られそうですね。調べておきます。お加減のほうはどのような……？」
などなど、疑問点があれば夜勤担当者に質問してしっかりと把握し、7時半から業務開始。
　その後は、チェックアウトするお客様のお見送り、連泊のお客様から様々なご要望を承る。特に年末年始なので、それに合わせた観光スポットなどを客の好みに合わせてセレクトしてご紹介。その他、周辺のレストランへの予約など。ホテル内他部署、旅行代理店、クリーニング業者と連携……業務は多岐にわたる。

　午前中はそんな具合にばたばたで、ようやく人心地つけたのはお昼休憩の時だった。お昼、といってもタイミングをみていたら１４時になってしまっていたが、そこで真優理は調理スタッフのみなさんの心遣いを目にすることになる。

「あ、今日のお昼は年越しそばね。天ぷらがサクサクおいしい」

　そう。慌ただしすぎて忘れそうだが、大晦日なのだ。このくらいの季節感は味わいたい。
　この職場の救いは、高級ホテルだけあって、スタッフ向けの食堂の料理もかなり美味しいことだ。
　だからこそ午後も頑張れるというもの。

　休憩から戻ると、慌てているのをぎりぎりで隠した表情の後輩が真優理のところに早足でやってきた。
　トラブルが起きているらしい。どこかの社長さんが、どこぞで見つけてきた寝子島土産を夕方までに１００個用意してほしいと我儘を言っているとか……。
「在庫はないし、作っている会社に電話してもつながらなくて」
　後輩はこそこそと事情を打ち明ける。
「ああ、ここ……家族経営の小さい会社だし、大晦日は閉めてるわよね」
「どうしましょう水谷さん」
「……このお土産なら、卸先、何か所か心当たりがあるわ。今日開いている店もあるでしょうから、在庫がないか問い合わせてみるわね」
　――この件は、結局何とかなった。そのほか、飛行機や特急列車の予約、宗教上の理由でルームサービスの食事が食べられない……と言ったことを手配したり、本日チェックインのお出迎えなどをして――。

「業務終了」
　時計は夜７時。丸半日の勤務だ。あとは夜勤担当者と情報共有や引継ぎをして、明日の準備などを済ませて８時半に退勤……のはずだったのだが。帰りかけていた真優理のところに、数人のスタッフが駆けてきた。
「水谷さーん、待ってー！」
　聞けば。スイートの客が厄介なことを言い出して、これを処理できるのは水谷さんしかいないということになったらしい。お願いします、と頼み込まれて、そこからその面倒な客の対応を約２時間。
　なんとか矛を収めてもらって、ホテルを出たときにはもう１０時半になっていた。
「やっと解放された。あー疲れた。絢ちゃーん、会いたいよー」
　だが今夜はまだ大晦日。明日、元旦も早朝から出勤だ。
　真優理さんの年末年始はまだまだ終わらない。