怪人セブンの歌劇｜リアクション

怪人セブンの歌劇

【人の波の溺れる】

　人質を解放したころ、エントランスは阿鼻叫喚となっていた。
　洗脳もれいびたちの増援が到着してしまったのだ！
「急に増援が！？　ちくしょう、女子会の時と同じか！」
　志波がろっこん『スイ・マー』で応戦しつつ、まずは七緒を逃がすために踏み止まる。
「璃音ちゃん、今のうちに！」
「さ、さんきゅ……。志波、死ぬなよ……！」
　七緒はダッシュでエレベーターから大ホールへ逃げることにした。
　彼女は振り返らない。
　自衛手段がないのだ、任せて逃げるほかできない。
「……死ぬなよ、か。もちろんだとも、俺はまだまだ死ねないんだ」
　こんな時でも志波は笑顔だ。
「愛しい弟の将来を見届けるためにも、弟を取り巻く環境が平穏であるためにも、こんなところで死んでたまるか……！」
「加勢するぜ、志波先輩！」
　特殊警棒を振り回し、襲い掛かる暴漢どもを払い除ける望月。
　浅山は既にエレベーターに乗ったあとだ。
　志波の救援のため、やむなく浅山と別行動を取らざるを得なかった。

「奇遇っすね、志波先輩。俺もまだ死ねないんですよ」
　望月は暴漢の顔を蹴り飛ばしたあと、食べかけの板チョコをかじった。
「俺、まだ世界中のチョコレートを制覇していないんで、ここで簡単に死ぬわけにはいかないんですよ」
　志波は彼女の死ねない理由に思わず吹き出した。
「ぶはははっ！　そりゃ死ねないなー、神無ちゃん！」
「笑わないでくださいよ、そっちこそ大概じゃないですか、志波先輩！　安定のブラコン！」
　２人は後退しながら、笑顔を突き合わして声を張り上げた。
「「俺たちが死ぬときは、全てを諦めた時だよな！」」
　２人の即興のコンビネーションが、烏合の衆を押し退けていった。

　中央エントランスの戦闘は激化していた。
　まず、東館の神野が攻撃されているのを、シグレが駆け付けて救出。
　神野は頭から血を流す軽傷を負う。
「セブンの増援か！」
　日暮は特殊警棒と八極拳を織り交ぜ対抗。
　気絶している維都月の護衛も怠らない。
「犬の俊敏性を舐めないでね！？」
　犬井は獣人モードのまま敵の背後に回り込んでチョークスリーパーを掛ける。
　そのまま敵を盾に使ったり、息の根止まらない程度にキュッと、半殺しくらいのつもりで文字通り締めていく。
「大丈夫です、無力化させるだけです……！」
　稲場はろっこんで敵の足を狙い続ける。
「足を狙われると厄介なんですね。今、まさに実感してますし……」
　撃たれた足を庇いながら、じりじりと後退していく。
「イケメンは常にプランＢを用意しているものさ。だって、『二枚目』だからね！」
　八十八旗は自分のブラックカードに加え、家族カードも持ち出していた！
　ろっこん二刀流で敵を惑わし、横から雪見がバットで殴打する。
「よし、みんな、このまま後退して小ホールに篭城するぞ……！」
　シグレが派手な動きで霍乱させつつ、全員を小ホールまで誘導していく。
　だが、徐々に力押しされていく中央エントランス勢。
　前衛の戌井や雪見、日暮は既に満身創痍だ。
　しかもロゼッタと維都月の戦闘不能者を抱えているので、身動きが取りにくい。
「爆弾爆破まで、あと30分……！」
　日暮が呟く。
「俺が時間を稼ぐ！　ブリジット、ロゼッタと維都月を頼む」
「任せて、ジニー！」
　劉がろっこんでワイヤーを発射して敵の動きを阻害している間に、ブリジットが２人を引きずって小ホールを目指す。
　いまだ、解除パスは不明のままだ――。