夏を取り戻せ！｜リアクション

夏を取り戻せ！

4．彼の大きい竿

　しょうもない話をしながら釣りを続けていたふたりは、しばらくして気付いた。
　暑い。
　テントの場所は日陰だったが、ここは思いっきり日向だ。水分補給をしないと、最悪倒れてしまう。
「あれ？」
「どうした？」
「持ってきたと思ってたラムネがない！」
「何……」
　うっかり忘れてしまったようだ。ふたりは汗をかいた。暑さによるものと、焦りの汗もありそうだ。
　どうしようかと顔を見合わせていると、そこに救いの神が現れた。
「おーい！」
　声をあげてやってきたのは、寝太郎だった。
「飲み物持っていってなさそうだったから、大丈夫かなーと思って！　はいこれ〜」
　言って、両手に掲げたのはラムネだ。
「神よ！！」
　刀はすぐさまそれに飛びつき、茂へも一本渡した。と同時に、フタをそそくさと開ける。直後に思いきり喉へ流し込んだ。
「うめー！！！　このラムネは俺の人生1、2のうまさだ！」
　あまりの感動に雄叫びをあげる刀。その横で、茂もほっとした表情を浮かべつつラムネを飲んでいる。

　無事息を吹き返した彼らは、寝太郎が見守る中釣りを再開した。すると彼らの元気に応えるように、男たちの竿がぴくぴくと反応する。
「浮きが動いてる！」
　寝太郎が指をさした。
「リールを！」
　茂の竿が大きく動く。これはでかい。男たちは興奮した。竿が上下に動くたび、興奮は大きくなっていく。
「おっ、おおっ！？」
　ギャラリーの寝太郎と刀が注目する中、茂はとにかく手を動かした。そうでもしないと、竿の動きを制御できないのだ。見られながらというのは恥ずかしい気もしたが、彼自身興奮していたのかそれどころではなかった。
　そしてついに、その瞬間は訪れた。
　一際大きく竿が動き、茂から声が漏れた。
「くっ……！」
　フィニッシュまでもう少し。もう少し。頭はもう出ている。と思った1秒後。
「いったー！！」
　寝太郎と刀が歓声を上げた。見事なフィニッシュだった。達成感からか疲労からか、茂はその場に倒れ込んだ。
「先輩、お疲れ様です。見事でした」
「先輩の竿、すごかったです」
　褒められた茂は、満更でもなさそうに力なく答えた。
「気持ちいい……ものだな……」
　一応念のため記しておくが、釣りの場面である。

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