夏を取り戻せ！｜リアクション

夏を取り戻せ！

2．立派なテント

「立派なテントですねぇ」
　説明書を見ながら、寝太郎と刀、茂の3人はテントを設営していた。
「そ、そうか？」
「これ張ったらどうなっちゃうのかな」
　ペグ（テントを張る際に使用する杭）を手に持ちながら、寝太郎は茂の持参したテントを褒める。
「あれ、猫島それ斜めに打った方いいみたいだぞ」
「あ、本当？　ありがとう〜」
　刀が説明書に小さく書かれていたポイントを見逃さず、的確に指摘していく。彼自身キャンプ慣れしているわけではなかったが、戦いなどで得てきた視野の広さや観察眼が活かされているのだろう。
「うーんフレーム折りそうで怖いなぁ」
　寝太郎が不安になりながらもフライシートを地面と固定させるべく、ロープを締め上げる。たぶんロープで締め上げるはずだ。間違ってたらごめん。
「あとはハンマーで固定すればいいのかな、先輩いけそうですか？」
「ああ、任せてくれ」
　とは言いつつも、ぎこちない様子でペグを叩く。
「これ、ひとりでやろうとしたら難易度すげえ高いな……」
　反対側を支えながら刀が呟く。説明書を見ながら男3人でやってもこれだけ苦戦するのだから、ソロでこれを出来る人はさぞかし格好良く見えるだろう。
　キャンプができる男子は格好いいのだ。いや別にそこを求めてここに来たわけではないけど、周りの女の子にきゃーきゃー言われる様を想像すると刀は自然とにやけた。
　寝太郎はそんな彼を見て、またなにかむっつりなこと考えてるのかなあと思ったが口には出さないでおいた。

　設営開始から30分弱くらい経った頃。
　無事テントは完成した。示し合わせたように、一同揃って「おお」と声が出た。
「皆で頑張った甲斐あって、なかなか良くないですか？　先輩、御剣君」
　ふふふ、と笑う寝太郎は満足げだ。
「これがひとりでできるようになったら、格好いいだろうな」
　刀が言うと寝太郎はやっぱり……と苦笑した。そんなことだろうと思った。
　とにかく、大物のテントさえできればあとはそこまで大変な作業はない。バーベキュー用の六角コンロや焚き火台を設置し、テーブルやイスを置けばそれっぽいキャンプ風景のできあがりだ。
「準備も済んだし、釣りに行くか」
　刀が言った。ここからは二手に分かれ、寝太郎は山で食事の準備を。刀は川で洗濯……もとい、釣りに行く作戦だ。
「焼き魚、楽しみにしてるね」
「ああ、今日の晩飯は期待してろよ！」
　拳を掲げ、刀は釣具店で用意してもらった入門用の釣り道具とともにテントに背を向けた。

◇

　刀が離れてから、寝太郎は茂と一緒に食事の準備に取りかかっていた。
　まずは湖岸に石で囲いをつくり、そこへ持ってきたスイカを入れる。
「スイカをタオルで巻いて水に浸ければ全体が冷えるって考えた人すごいですよね〜」
「たしかに、この発想は目から鱗だな」
　本当に目から鱗だった。なぜか説明口調の寝太郎のおかげで助かった。そういうことだったんだ。
「あっ」
「どうした？」
「ラムネ忘れてる」
　夏といえばで思い浮かべる飲み物ナンバーワン、スポーツでいえば不動のエース、恋愛でいえばクラスで一番人気のあの子。それがラムネだ。
　これを忘れるとはなんたる失態。
　寝太郎は慌ててスイカのそばにラムネを添えた。刀が戻ってくる頃には、いい感じに冷えているだろう。

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