いきなり！　ドラマ出演でショー！！｜リアクション

いきなり！　ドラマ出演でショー！！

＞街頭のヴァイオリン弾き
　――こういう時は、格好いいヒーローを思い出そう！

　緊張していた藍川慶介は、ヴァイオリンを手に瞑想モード。脳裏に過ったのは最近見たヒーローの映像。
（そういえば、緊張するような時でも、ピンチの時でも余裕があったな……）
　はっきりと思い出した途端、腹の底から勇気が湧いてくるような気がした。
「よし、元気が出て来たかも！」
　丁度いい具合に撮影の時間となる。慶介は早速ヴァイオリンを手にした。

　慶介の演技は流石に演劇専攻の生徒やプロに比べたら素人同然かもしれない。だが、彼には、ヴァイオリンを奏でる事で（自分含む）周囲の人に自信を持たせ、ポジティブな気分にする『希望の音色』というろっこんがある。
（このろっこんで、スタッフさんや役者さん達を鼓舞したいな。できたらいいな）
　と、ここで小道具のサングラスが無い事に気付いた。だが撮影は始まっている。と、そこでエキストラに扮したスタッフさんが気をきかせ、慶介に手渡す。
「ありがとう！」
　さっ、と書けようとしたがそれはサンマである。妙に冷たいサンマをむんずと掴み
「ってサンマじゃない！」
　と投げ返すとスタッフがサングラスとおしぼりを手渡す。これにはエキストラさんも思わずくすりと来たようだ。
　気を取り直し、慶介は心を込めて演奏をする。高校の制服を纏う二人の姫と友人たちがしばし楽し気に聞いていた。……その筈だった。
（ん？）
　慶介ははたと気づく。どこからともなくピアノ伴奏が聞こえてくるのだ。そこにそっとハイハットが鳴り、ドラムセットの音も加わっていく。
（え？　音響さん？？）
　それでもどうにか演奏を続ける慶介だが、スタッフさんたちも辺りをきょろきょろ。
（違うんだ？！）
　ここで止めたらいけないと考えた慶介は、とりあえず演奏は続ける。カメラは回り続けているのだから、止まったら『ドラマが成り立たない』事を彼は感じている。
　様々な楽器の音が、慶介の演奏を盛り上げる。
（どうせなら）
　前を向く。他の演者たちが、エキストラたちが自分を見ている。
（楽しく、演りたい！）
　いつのまにか、慶介は前向きにその音を受け入れ、己の演奏に力を入れていた。
（でも、一人でつっぱしってはいけない。ヒーローはこんな時でもアドリブに答えれるんだ）
　彼の演奏は盛り上がり、聞いていた人たちも皆ノリノリになった。