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笑顔の連鎖
お昼休みの寝子島高等学校は、いつだって賑やかだ。
特に今日は、元理事長が主催したパーティの翌日。寝子高生にとって参加しやすい物であったため、話題の中心となっているのは言わずもがな。受験を控えた３年生の廊下でさえ、沢山の明るい声が飛び交っていた。
「ありがとうございますっ！」
その中でも、とりわけ弾んだ七夜 あおいの声が、自席でノートに向き合っていたはずの八神 修の顔を上げさせる。間を置かずに、３年４組の扉は勢い良く開け放たれた。
「やったよ！ 今日の放課後、お待ちしていますって」
――ガレット・デ・ロワに隠された幸運を、お裾分けしたい。
思いつきのようにぽつりと零した修の発案は、あおいの興味関心をひいて、昨日の帰り道では思いつくままに意見を出し合った。
そして今日。
しっかりと『幸せのお裾分け』を成功させるために、２人は役割分担をして奮闘している最中だ。
まとまりなかった案から要点を拾い上げ、寄付への思いを過不足無く伝えるための会話運びを考えるのが修の仕事。そして、相手方にアポイントを取るのがあおいの仕事。
まずは計画の第一段階を突破してくれたあおいに労いの言葉をかけ、修も進捗のほどを報告する。けれど、その顔は彼女ほど自信に満ちあふれているわけではなかった。
順序立てた説明というのは、ある程度テンプレートが決まっている。ただ、こちらの意図を伝えるばかりで無く、相手の価値観に寄り添いペースも合わせてとなると、なかなか難しい。
「できるだけ『許可を取る』だけじゃなくて、『望まれる』のが理想なんだけれど……」
こちらの都合で急な訪問になった点は申し訳なく思うが、やはり気持ちとはいえ必要とされる物を贈りたい。
電話で簡潔に済ますのではなく、しっかりと顔を見て話すことで理解を得られやすくなるはずだが、寄付というのは全てが無条件に喜ばれる物でも無かった。
「たまにニュースでも問題になっているよね、ヒーローの名前を使った寄付とか」
本当に良心による寄付だとしても、持ち主不明の荷物というのは余程困窮している場面であっても受け取りにくい。それが認可園として地域に根付いている『しぶき保育園』であれば尚のことだろう。
かといって、顔も名前も知っている間柄なら問題ないかと言えば、そうでもない。遠慮だけなら話し合いでどうにかできるかもしれないが、まだ保護者が必要な学生から物資を受領すること自体を良しとしないケースだって考えられる。
「今回は、あおいの力を沢山借りることになりそうだな」
学生でも無理の無い範囲で寄付を。そうは思っても、限度というのは育ってきた環境によっても異なる物で、修はこれ以上自分の感覚で進めるのは困難だと感じていた。
「例えば予算の点。いくら８割引だからって、色鉛筆の100色セットが駄目なのはわかるんだけど……」
「待って待って！ 修君、高校生のお小遣いはいくらか知ってる？」
当然、と言いかけて修は思案した。
学生の本分は勉強、とはいえ保護者の同意があればアルバイトもできる。本分をまっとうしている高校生が、それを理由に格差に巻き込まれるなんて、おかしいのではないか？
となると、一般的な高校生が手に出来る金額は、さほど少なくないだろうと考えた。
「じゅ……」
まだ言い切ってもいないのに、あおいは信じられない物を見るかのような顔をしている。
どうやらこの見積もりは甘かったらしく、桁を間違えたらしい。
「……うぶんに、やりくりが必要な額だよね」
確かに、バイトに明け暮れて勉学が疎かになるくらいならと、成績の維持を条件に少々平均より高い額を貰える子もいるだろうし、筆記具や定期など必要経費を別途支給される代わりに、月ごとに決まった額は少なめという話もある。
お小遣いでどこまでまかなうかにもよって、金額の多い少ないといった印象は変わるが、高校生のお小遣い平均額は５千円。受験生で何かと入り用になったとしても、増えるのはワンコイン程度というのが相場である。
「いくら割引率が大きいからって、びっくりされちゃうような物は控えないと」
ごもっともだ。
消耗品主体に小型の備品でもと思っていた修は、提案書の品目リストに『要検討』とペンを走らせた。
「なら、２人からってことだし……支払い価格が６千円を越えない範囲でどうかな」
割引前の金額目安が３万円と計算しやすく、高校生の平均的なお小遣いの全額を使わない。
それでいて、園全体に消耗品が行き渡りそうな額でどうかと判断を仰ぐ姿は、まるで妻に財布を握られた夫がお小遣い交渉をしているようだ。
熟考しているあおいだって、形に残る備品をという修の気持ちはわかる。
安かろう悪かろうな品が溢れていることだって知っているし、ここぞというときには奮発するものだとも理解している。
けれど提示されたのは結構な大金だ。それを前に、「いいね！」だなんて無責任に言えるわけがない。
そもそも、だ。本当に予算はこんなに必要だろうか。
簡単に流し見た提案書には、概算も書かれている。そのどれもが大手通販サイトの通常価格を参考にしていると、丁寧に書き込みはあったけれど。
……もしかしたら修は、お得に買う方法を知らないのかもしれない。
これは腕が鳴りそうだと、あおいはくすくすと笑った。
特に今日は、元理事長が主催したパーティの翌日。寝子高生にとって参加しやすい物であったため、話題の中心となっているのは言わずもがな。受験を控えた３年生の廊下でさえ、沢山の明るい声が飛び交っていた。
「ありがとうございますっ！」
その中でも、とりわけ弾んだ七夜 あおいの声が、自席でノートに向き合っていたはずの八神 修の顔を上げさせる。間を置かずに、３年４組の扉は勢い良く開け放たれた。
「やったよ！ 今日の放課後、お待ちしていますって」
――ガレット・デ・ロワに隠された幸運を、お裾分けしたい。
思いつきのようにぽつりと零した修の発案は、あおいの興味関心をひいて、昨日の帰り道では思いつくままに意見を出し合った。
そして今日。
しっかりと『幸せのお裾分け』を成功させるために、２人は役割分担をして奮闘している最中だ。
まとまりなかった案から要点を拾い上げ、寄付への思いを過不足無く伝えるための会話運びを考えるのが修の仕事。そして、相手方にアポイントを取るのがあおいの仕事。
まずは計画の第一段階を突破してくれたあおいに労いの言葉をかけ、修も進捗のほどを報告する。けれど、その顔は彼女ほど自信に満ちあふれているわけではなかった。
順序立てた説明というのは、ある程度テンプレートが決まっている。ただ、こちらの意図を伝えるばかりで無く、相手の価値観に寄り添いペースも合わせてとなると、なかなか難しい。
「できるだけ『許可を取る』だけじゃなくて、『望まれる』のが理想なんだけれど……」
こちらの都合で急な訪問になった点は申し訳なく思うが、やはり気持ちとはいえ必要とされる物を贈りたい。
電話で簡潔に済ますのではなく、しっかりと顔を見て話すことで理解を得られやすくなるはずだが、寄付というのは全てが無条件に喜ばれる物でも無かった。
「たまにニュースでも問題になっているよね、ヒーローの名前を使った寄付とか」
本当に良心による寄付だとしても、持ち主不明の荷物というのは余程困窮している場面であっても受け取りにくい。それが認可園として地域に根付いている『しぶき保育園』であれば尚のことだろう。
かといって、顔も名前も知っている間柄なら問題ないかと言えば、そうでもない。遠慮だけなら話し合いでどうにかできるかもしれないが、まだ保護者が必要な学生から物資を受領すること自体を良しとしないケースだって考えられる。
「今回は、あおいの力を沢山借りることになりそうだな」
学生でも無理の無い範囲で寄付を。そうは思っても、限度というのは育ってきた環境によっても異なる物で、修はこれ以上自分の感覚で進めるのは困難だと感じていた。
「例えば予算の点。いくら８割引だからって、色鉛筆の100色セットが駄目なのはわかるんだけど……」
「待って待って！ 修君、高校生のお小遣いはいくらか知ってる？」
当然、と言いかけて修は思案した。
学生の本分は勉強、とはいえ保護者の同意があればアルバイトもできる。本分をまっとうしている高校生が、それを理由に格差に巻き込まれるなんて、おかしいのではないか？
となると、一般的な高校生が手に出来る金額は、さほど少なくないだろうと考えた。
「じゅ……」
まだ言い切ってもいないのに、あおいは信じられない物を見るかのような顔をしている。
どうやらこの見積もりは甘かったらしく、桁を間違えたらしい。
「……うぶんに、やりくりが必要な額だよね」
確かに、バイトに明け暮れて勉学が疎かになるくらいならと、成績の維持を条件に少々平均より高い額を貰える子もいるだろうし、筆記具や定期など必要経費を別途支給される代わりに、月ごとに決まった額は少なめという話もある。
お小遣いでどこまでまかなうかにもよって、金額の多い少ないといった印象は変わるが、高校生のお小遣い平均額は５千円。受験生で何かと入り用になったとしても、増えるのはワンコイン程度というのが相場である。
「いくら割引率が大きいからって、びっくりされちゃうような物は控えないと」
ごもっともだ。
消耗品主体に小型の備品でもと思っていた修は、提案書の品目リストに『要検討』とペンを走らせた。
「なら、２人からってことだし……支払い価格が６千円を越えない範囲でどうかな」
割引前の金額目安が３万円と計算しやすく、高校生の平均的なお小遣いの全額を使わない。
それでいて、園全体に消耗品が行き渡りそうな額でどうかと判断を仰ぐ姿は、まるで妻に財布を握られた夫がお小遣い交渉をしているようだ。
熟考しているあおいだって、形に残る備品をという修の気持ちはわかる。
安かろう悪かろうな品が溢れていることだって知っているし、ここぞというときには奮発するものだとも理解している。
けれど提示されたのは結構な大金だ。それを前に、「いいね！」だなんて無責任に言えるわけがない。
そもそも、だ。本当に予算はこんなに必要だろうか。
簡単に流し見た提案書には、概算も書かれている。そのどれもが大手通販サイトの通常価格を参考にしていると、丁寧に書き込みはあったけれど。
……もしかしたら修は、お得に買う方法を知らないのかもしれない。
これは腕が鳴りそうだと、あおいはくすくすと笑った。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年08月14日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年08月21日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年08月21日 11時00分
