もふもふもふもふもふもふもふも｜リアクション

もふもふもふもふもふもふもふも

◆受験勉強の息抜き

「受験勉強嫌なんだよー！」

　星ヶ丘、Chambre des écarlateの２階西側。
　その一室から三ヶ島葵の嘆きが聞こえる。３年生の冬と考えると受験勉強が重要なことは葵も分かっている。けれど、勉強ばかり続けていられない。

「息抜きに散歩するんだよー！」

　荷物を携え、部屋を出る。もちろん勉強道具は全て置いていく。外の空気は寒いものの、肌を刺すようなそれではない。

（だいぶ過ごしやすくて助かるー）

　気の向くままに歩き続け、猫を見かけてはもふもふする。

「はーもっふもっふだよー」

　寝子島は猫がたくさんいるので、もふもふしたい時にもふもふし放題だ。猫たちも慣れているのか、これといって抵抗しない。黒猫、白猫、三毛猫、キジトラ、サバトラ、他にも多様な猫がここには居る。

「あれー？　あそこにいるのはー……」

　猫たちを満喫していると、餅々きなこの姿が見えた。

「きなこくん、こんにちはだよー」
「？」
「わかるかなー？　寝子高３年の三ヶ島だよー葵だよー」

　そこでようやく、きなこは合点がいった顔を見せた。

「よく学校にいるよねー？」
「たのしいから！」

　２人で猫をもふもふしながら雑談を楽しむ。

「ふっふふー……幽霊は受験勉強が無くていいねー」
「じゅけん？」
「うーん、いっぱい勉強しないといけない時期かなー。遊ぶ時間も減っちゃうしねー」

　それを聞いて、きなこは顔をしかめた。こうして猫と戯れる時間も無くなると察したようだ。

「そういえばきなこくん、いつ幽霊になったのかなー？」
「なんびゃくねんもまえだよー」

　以前まできなこ自身も忘れていたらしいが、とある出来事をきっかけに思い出したらしい。
　
（何百年も前となると、もしかしたら学校に行ったことがないのかなー？）

　外見が６歳程度なのもあって、葵のなかでそんな疑問が生まれた。だからこそ聞いてみた。

「寝子高はどうかなー？　楽しいかなー？」
「うん！」

　即答だった。その表情の晴れやかさはきなこの気持ちを表していた。葵は鞄からデジカメを取り出す。

「写真撮ってもいいかなー？　非公式新聞部の記事に使わせてもらうんだよー」

　了承を得ると、いろんな角度から撮影を試みる。猫たちも一緒に写る構図もいろいろ撮った。

「理事長秘書のプライベート激写だよー。そういえばきなこくん、理事長せんせーに色々アドバイスしてるんだってー？」
「うん！」

　葵の問いに元気な声が返ってきた。アドバイスの内容は子どもらしいものばかりだが、本人はいたって真剣に考えている。

「じゃあ私の意見も参考に、どうかなー？」
「いいよ！」
「ふっふふー……じゃあねー、こういうイベントがあったら面白そうだと思うんだよー……」

　葵はきなこに耳打ちする。期末テストや終業式に関連した色々な発想。
　この２つの行事は葵にとって最後になるため、とんでもないことが起こったら面白そうだなという気持ちもある。
　それから２人で猫と戯れながら満足するまで話した。

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