もふもふもふもふもふもふもふも｜リアクション

もふもふもふもふもふもふもふも

◆気高く、力強い生き物

　桜井ラッセルは空を見上げる。冬の空は肌寒く、澄んでいた。

「それじゃ行くか」

　オルゴールの金の鍵を強く握りしめ、ろっこん『黄色いピヨコ』を発動する。そして鷹に姿を変えると高く飛び上がった。

「冬だからカナリアじゃ厳しいけど、これならひとっ飛びだ」

　向かう先は九夜山。空から見ると葉を落とした木々が見える。

「夏鳥たちが南にいっちまって寂しくなったけど、去年会った冬鳥たちにはまた会えっかな」

　期待と不安を胸に九夜山に到着すると、適当な木の枝にとまる。山のなかでは鷲やフクロウなどが活動していた。大きく翼を広げて飛ぶ姿は雄大だった。

（……間近でみれるなんて人じゃありえないよな……かっこいい。力強い羽ばたきだし、木々をぬう飛行なんてマネできねぇ）

　ラッセルは鳥たちの飛ぶ姿をただ眺めていた。

（『技は見て盗む』ともいうけど、できるかな）

　翼の動きや体の使い方をよく観察して実践してみるが、どうも上手くいかない。自然界で何度も飛ぶことで身に付けたものなのかもしれない。飛んでいる鳥たちを見て、１つ息を吐く。
　ラッセルは、野生の鳥の寿命はわかっている。それに鳥が好きで生物部だ。
　彼らが何を食べているのか。どう生活しているのか。そして自然界が弱肉強食なのも知っている。

（だからこそ輝いてるし、俺は本物になれねーけど。ろっこんで近くに居られる間はお前らのこといっぱい知りたいな）

　視線の先には翼をたたみ、木の枝でたたずむ鷲が一羽。

（小さな頃から憧れてた『風を満喫したい。鳥になる夢』が叶ったんだ。いっぱい教えてくれよ）

　やがて飛び立った鷲の背中は、とても大きく見えた。ラッセルは他の鳥たちも見たいと思い、飛び立った。すると雄フクロウから雌フクロウへ羽をあげているところを目撃した。

（アレなんだ？　なんかいいな。俺も家に飾りたい）

　気になって、少し離れたところで２羽の様子を窺う。
　しばらく無言で向かい合っていたが、雌フクロウが羽を受け取ると２羽そろってどこかへ飛んでいった。

「どうやら番になれたようだな」

　ラッセルの近くに降り立ったフクロウが話しかけてきた。

（番……？　は！？　え、あ……そういう……）

　そのとき、先ほどの羽を渡す行為が求愛行動なのだと気づいた。

「お前も好きな雌が出来たらやってみるといい」
「ああ、うん……がんばりまっす」

　鳥ではないラッセルが羽を異性に渡す機会は無いだろう。しかしプレゼントは大事だし、今のことは覚えておくことにした。