六月三番目の日曜に｜リアクション

六月三番目の日曜に

◆白い花と赤い瞳

母の日には白いカーネーションを持って行ったから、父の日には白薔薇を。
花束を墓前に供え、宮祀智瑜は手を合わせた。
白薔薇の花言葉は「尊敬」。
仕事をする姿を見てきて、カッコイイと思っていた。
勿論、今でも両親のことは大好きだ。
会えないのは寂しいけど、空から元気な姿を見て安心してほしい。
そんな気持ちが、花言葉と一緒に空へ届きますように。
そんなふうにしていると、沸き立つ泡の様に色々なことが思い出される。
次から次へ、楽しい思い出が。
瞳から熱いものが零れてきたのを、手で拭って。
「お父さん、お母さん。また来るからね」
元気よく笑って、お墓を後にする。
悲しいわけじゃなくったって、泣いてるところは見てほしくない。

帰り道、智瑜は向こうからやってくる見慣れた人影に足を止めた。
「義弘先生！」
智瑜が手を上げると、桐島義弘先生も気付いた様子。
駆け寄る智瑜に、何故か義弘は少し身構える。
「せんせ……あっ！」
例によってダイブしてしまった智瑜を、彼はしっかりと受け止めた。
「ごめんなさいっ！」
「こうなる気はしていたが……平気か」
「はい……ごめんなさい、いつもいつも」
赤くなりながら謝る。それから、気付かれないように先生のズボンを見るのも恒例。
「大丈夫、今日は万全だ」
胸を張る先生。母の日の時のように、袖のボタンが揺れているということもないようだった。

「それで、今日も何か用だったのか？」
「そういうわけじゃないんですけど。あ、でも聞きたいことはあるんです。父の日、先生は何を贈りました？」
「傘を贈ったよ。丁度つい先日、父の傘が壊れてしまったものでな」
「先生のお父さん、きっと嬉しかったでしょうね」
「だといいんだが。宮祀は……今日もか？」
義弘の表情が、気づかわしげなものに変わる。
一方智瑜は、目が赤くなっているのを悟られないように努めて明るい調子で。
「はい、今日は白薔薇を。そうだ先生、もう一つ聞いてもいいですか？」
「む。何だ？」
「学生時代って、何を贈ってました？　今後の参考にできたらなって」
先生はきちんと渡していそうだから。
「確かネクタイと……他には、仕事で使えそうな小物を渡していたと思う」
「なるほど……」
そういったものなら、高価になり過ぎないという点でも良さそうだ。
「ただ母と同じで聞いてもいらないと言うから、選ぶのは難儀したが」
「でも、喜んでくれたんですよね？」
「……まあ、それはな」
少し、先生のことがうらやましいと思ってしまう。
直接気持ちを伝えることができて、喜んでくれているのが見てわかる。
それは、とても幸せなことだと思うから。
気が付くと、目頭の辺りがじんわりと熱を持ち始めていた。
我慢しているのに。
目が赤いのにも、気づかれてしまう。
「宮祀、今後の参考にと言っていたな。手紙を書くのはどうだ？」
「え……？」
泣きそうになるのを必死に我慢しながら、先生の顔を見上げる。
「気持ちを伝えるという意味では、一番じゃないかと思う。宮祀のご両親も、手紙を貰ったらきっと喜ばれるのじゃないかな」
きっとそれは、先生なりの精一杯のアドバイス。
「……そうですね、ありがとうございます」
いつかのように、先生に腕を回し抱きしめて。
「おい、宮祀――」
びりっ。
やっぱりいつかのように、嫌な音が一つ。途端にそれまでこみ上げていたものが引いていき、代わりに笑い声が漏れる。
「なおしてあげますね、先生」
離れて取り出しましたるは、裁縫セット。
先生に向けるのは、笑顔。