ラビリンス・オブ・オンセン｜リアクション

ラビリンス・オブ・オンセン

　その時、佐和崎紗月と初瀬川理緒は一緒にバスルームに入っていた。
　二人は恋人同士であったので、それは自然なことだ。

　先輩の理緒の勧めもあって、グラビアアイドルとしての活動を本格化させた紗月。出だしは順調であったが、変化した環境に翻弄されることも多い。ただでさえ華やかで脚光を浴びる業界、しかも男性の視線を露骨に浴びせられる。紗月の繊細なメンタルには、厳しい状況もあった。
　そんなとき、先輩のグラビアアイドルとしての理緒から、専門的なアドバイスを受け、パートナーからメンタルを支えてもらうことが以前にもまして増えた。恋人同士として、プライベートな相手としてかけがえのない人間であった理緒だが、仕事の上でも頼れる相手として、ますます依存し、愛着し、かけがえのない存在となっていった。
　今をときめくグラビアアイドルのためにしつらえられたバスルームは、王侯もかくやというような素晴らしい設備が整っている。二人はここで、互いの肉体を賞翫し、美意識の世界に溺れるのだ。
　
　ところが、そんな二人の世界が、急に邪魔されたのだ。

　――寝子島じゅうの風呂がつながった、泡のダンジョン？
　――モンスターがあとからあとから湧き出てくる？
　

　状況を知った理緒は、激怒した。
　紗月の困惑より早く、激怒した。

「泡まみれの素っ裸で放り出されたりしたら、人生終わるんだけど！」

　こんな変な事態に巻き込まれて、スキャンダルになるのはさすがにごめんだ。
　自分だけならまだしも、紗月まで巻き込むわけにはいかない。

　オケットランチャーをむんずと掴み、理緒は立ち上がった。

「私も、手伝う……」

　若干気押されつつも、紗月も立ち上がった。

「どおりゃああああ！！！！」

　恋人同士の時間を邪魔され、怒りを爆発させる理緒。凄惨な泡モンスター、虐殺の宴が始まろうとしていた。