ラビリンス・オブ・オンセン｜リアクション

ラビリンス・オブ・オンセン

　この変事に際し、星幽塔へと向かう階段をひた走る、一人の影があった。
（星幽塔の二階には温泉がある――もちろん、覚えているさ!）
　ロベルト・エメリヤノフ。
　幾多の寝子島の変事に立ち向かって、その危機をくぐり抜けてきた男。
　今回の「お風呂ダンジョン化」現象にあっても、いち早くその対応策を練るべく塔へと向かった。
　
　――というわけではなかった。
　
「なんたって、かわいい少年アヴィケンナがいるもんね！」
　可愛らしい少年を愛でるのが、何よりの趣味というロベルト。
　変事の原因の探求という使命感と、アヴィケンナと交流するという欲望。
　二つの満足を求めての、一石二鳥の星幽塔だった。　
「アヴィケンナくーん！　……おおっと」
　――プルプルプルーン！
　勢い込んで温泉に飛び込もうとしたロベルトに、巨大な泡の塊が飛びかかってくる！
「わっ、なんだこれ！」
「泡を流すの！」
　かけられた声の命じるまま、咄嗟に桶で湯を掬って、泡にぶちまけるロベルト。
　正体もなく泡は溶け去って、流れていく。
「助かったの。泡のモンスターにやられてたら大変なの」
　ロベルトのもとに駆けつけるのは、白いガウンを着た星の精霊ステラ。
「あれ、ショタは？」
「アヴィケンナはあっち……とにかく、いいところに来てくれたの！」

「……ふーん、そうか」
　ステラに怪事の内容を聞き、納得するロベルト。
「それじゃ、泡に気をつけないとね……全裸で放り出されたりしたら、美少年に冷たい目で……」
　呟くロベルト。
「あっ、それはそれでいいかも……」
「何を言っているの？」
「いや、でも寒いし！　捕まるのはやだし！」
　ステラの手をがっしと握るロベルト。
「頑張ろう！」
「さすがなの！　百人力なの？」
「ところでショタは？」
「アヴィケンナは此度の危機に際して、ある秘密の作戦に従事しているの……来て欲しいの」
　
「とおりゃー！！」
　扉を開けたロベルトの目に飛び込んできたのは、白のガウンをまとって、巨大なタオルで風を起こしているアヴィケンナ。
「何を……タオル！？」
「ロウリュなの！」
「な、なぜ……」
　エヘンと胸をはるステラ。
「お風呂におかしなことが起こっているという情報は、すでに星幽塔にも到着済みなの！　ステラたちはこの事態を収拾すべく、アヴィケンナと二人でロウリュを第二階層に投入することにしたの！」
「いや……それで泡は落ちない……」
「ダンジョンの問題を解決して、ロウリュの導入もできるの。一石二鳥なの！」
「なんの解決もできないような……」
　傍らには、疲れた顔のアヴィケンナ。
「アヴィケンナは、それでいいの？」
「……反対するのにも疲れたし」
　ため息を吐く。
　彼にも、いろいろな苦労があるのだろう。
　
「ちゅーわけで、頼もしき勇者と、可愛い星の精霊と使いっ走りのアステリズムがいれば、勝ったも同然なのー！　一緒にアワワ魔王を倒すの！」
「ちょ、ちょっと……」
　ぐいっとステラに腕を掴まれたロベルトとアヴィケンナ、サウナ施設の濛々と煙の立つ炉の中に突き落とされるのだった。