ラビリンス・オブ・オンセン｜リアクション

ラビリンス・オブ・オンセン

「きゃあーーーーー！！！」

　時ならぬダンジョンの出現――しかも、あらゆる寝子島のお風呂、サウナ、バスが一つにつながってしまうという怪異。
　突然発生したこの事態に、驚き、おびえ、悲鳴を上げる者が多数いた。
　
　その中でも、特に以下の女性は、その微妙な年頃、多感な時期に相応しく、被害のショックも強く、ニュアンスも複雑であり、まさにこの奇怪な事件を象徴するに相応しい人物達であったと言えるだろう。
　
　一人目の女性――綾辻綾花。
（･･････ここは･･････）
　突如自宅のバスタブの中に引き込まれた彼女、胎内洞窟のようなほの明かりの迷宮を抜けるうち、柔らかな薄もやに包まれた空間に出た。
「あ……あそこに……」
　白濁する蒸気の中に揺れる、人影。
　念を入れて全身にタオルを巻き、近寄る。
　
　
「すいませーん、あの……」
　言いかけて、言葉が止まる。
　もやの彼方の人影。
（あの人は……）
　濡れそぼった黒髪。
　成人男性というには華奢な、中肉中背の体型。
　その人物を、彼女は知っている。
　その細い腕は、意外に力強くて、背後から抱きすくめられるとすごく安心することも。
「珪……先生……」
　見忘れようはずもない。
　綾花の思い人にして、寝子高の図書館司書、早川珪。
　
　相手が見知らぬ男性じゃなくて、珪先生だった。
　
（ホッとしたけど……どうしよう……）
　
　急に頭に血が上って、綾花は腰砕けになった。

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