君の音は何色を示す｜リアクション

君の音は何色を示す

　寂しかったわけでもなくて、寝付けなかったわけでもなくて。
　ただ声が聞きたいなと思った夜に、電話が繋がらなかった。

　上着を羽織って窓を開けたスピカ・フォーツは、白い吐息を夜空にのぼらせる。
　空気が澄んでいるからか、それとも単に明るい星が多いだけか。冬の星は、ひとつひとつ繋ぎ合わせれば立派なアクセサリーに出来そうなくらい、きらきらと夜空に散らばっていた。
　天文を生業とする家に生まれたスピカにとって、星は幻想的で綺麗なだけの存在ではない。
　この地球の外で何が起きているか、どんな物質が存在しているのかを科学的に証明するという意味では、寧ろ夢見がちな要素などカケラもないだろう。
　それでも、まだ名の無い星があって、知らぬ現象があって。広がり続けているという宇宙には、夢に溢れているという見方もできるかもしれない。
　冷たい風が部屋に舞い込み、寝息が聞こえる。同室の者がいるのだ、真冬に長く窓を開け放つわけにもいかなくて、スピカはそっと窓を閉じた。
　そっと触れればひんやりとする窓ガラスは、覗き込めばじわりと星空を歪ませてしまうように曇ってしまう。
（…………）
　諦めて眠ってしまおうか、でも。
　もう一度スマートフォンを握りしめてみるけれど、やっぱりそこには何の通知もなかった。
　タイミングの合わない時だってある。
　別に喧嘩をしたでもなし、急ぎの用事があるでもないのだから、気にする必要は無い。
　そう言い聞かせてはみたけれど、スピカはスマホを持って階下に降りた。
　さすがに部屋の外ともなると、上着を羽織っただけでは部屋着の薄さはカバーできなくて少し肌寒い。
（少しだけ）
　明日の天気が気になったから。
　今日の星空が何を知らせるのか、詠んでみようと思ったから。……なんて。
　星を見上げるのに理由はいらないけれど、スピカは理由を探した。
（……もう少しだけ）
　どちらかと言えば無口で、優しいからこそ相手を思って冷たく諭す部分は、冷ややかな印象を与えがちだ。
　冬の夜空の下が似合うような白銀の髪に、青い電気石のような瞳は、氷の精霊にも見えることだろう。

　でも、本当にそうであるなら、こうして星空を眺めていない。

　観測するのならば、相応の格好をして条件の良い場所へ赴くし、少し見上げるだけなら階下まで来ない。
（お願い）
　頬が冷たいのを我慢して、星を数えるフリをして。
　願えば叶うなら、星が翔るより早く口にできそうなくらい想っている。
　可愛い我が儘だと受け入れてくれそうな彼は、今なにをしているだろう。

　――ただ声が聞きたい。

　明日になったら会えるのに。
　おはようと挨拶をして、言葉なく隣に座っていることができるとわかっていても、甘えたくてたまらない。

（星を集めて扉が作れたら……繋がる？）

　握りしめていたスマホが短く２回震える。
　起きているかを確認するメッセージと、寝ているならモーニングコールをしようという物だ。
　もちろん、相手は待ち望んでいた人。
　スピカはメッセージを打つのももどかしく、すぐに電話をかけた。

　あんなにヤキモキさせたコール音が聞こえないくらい、すぐに繋がる。
　聞きたかった声が優しく耳をくすぐって、それは幸せを歌ったメロディのように心地よい。
「……ありがとう」
　今夜連絡をくれたことも、そうだけれど。もっともっと、小さく無数にある感謝をこめて。

　見上げた空には無数の星が輝いている。
　それはやっぱり、証明できる煌めきだけれど……夢の先を示すカケラなのかもしれない。