君の音は何色を示す｜リアクション

君の音は何色を示す

　手放せない物というのは、誰にだってあるはずだ。
　長年連れ添った抱き枕代わりのぬいぐるみとか、これと決めたメーカーのコーヒーだとか。
　気付いたら習慣になって愛着が湧いたのなら、それは胸を張って自分の一部だと言えるだろう。
　けれど、望まないまま擦り寄ってきた存在は、同じように受け入れられるだろうか。

「あ、これかわいい！」
　花の女子高生である白真白は、ウィンドウショッピングをしていた。
　誰に見せるでもないけれど、豊満なボディを支える下着がオシャレだとテンションが上がる。それこそテストやカードゲームの大会に出る際は、ある意味で『勝負下着』なんかで挑むことだってあるくらいだ。
　低身長で幼めな顔立ちに、大きすぎる胸。アンバランスで服の系統に悩むことは少なくないが、服の下であればある程度自由に――と、ならないのが真白をさらに悩ませた。
（セットかぁ……）
　マネキンは上下セットで着こなしているけれど、それを買うことはない。
　可愛いと思うデザインは、なかなか真白のバストサイズに対応していることが少なくて、専門の店にでもいかなければ実用性重視な野暮ったいデザインになってしまうのがひとつ。
　それから、とあることを切っ掛けに手放せなくなったおむつのせいで、こうした薄手のショーツを履くことはなくなったからだ。
　近年では、下着メーカーとおむつメーカーがコラボをしてくれるおかげもあって、薄型でオシャレな物も増えてきたし、おむつカバーだって人に見せられるくらい可愛いデザインが増えている。嘆くほどの不遇な状況ではないけれど、こうして見てしまうと適度なサイズで普通に健康な身体を持つ人が羨ましくもあった。

　でも、逆を言えば普通の人にはできないオシャレができる。

　小ぶりのブラジャーは種類が多く愛らしいけれど、大体はそれなりの大きさに見えるよう虚勢を張るものだ。
　しかし大ぶりの物であれば、さらに妖艶に見せるも控えめに見せるも選べるし、それに合わせてレースの量やカップの形が計算され尽くされているのなんて、芸術品のようだと思う。
　おむつだって、どうせいつかは、みんな世話になる物だ。
　一足先に熟知したことで、メーカーの良し悪しを語ったりするのもいいだろうし、いかにもなデザインしか見付けられない人に店を教えてあげる楽しみなんかもある。
（それはそれとして……）
　可愛い物は可愛い。自分が身につけられるか否かは別として、やっぱり可愛いは正義だ。
　真白は自分のサイズを気にせず、心ゆくまでウィンドウショッピングを楽しむことにした。

　ひとしきり店を冷やかして、いつもの店に新作が出てやしないかと足を運ぶ。
　特注サイズのブラジャーとおむつカバーなんて、通販のほうがよっぽど種類も豊富だとわかっているけれど、それでも実際に手に取れるのなら、そのほうがいい。
　となると、必然的に訪れるのはオーダーメイドも対応している胸が大きな人を専門にした店や、介護用品の店か、そこから紹介された下着店である。
　さすがに上下セットは厳しいが、片方のデザインを決めて相談に行けば、それに合う物を紹介してくれるようになった。

「新作見せてくださいっ！」

　始めは使えたらいいと言わんばかりだった、おむつの品揃えも変わった。
　若人に需要があると知り、品揃えが変わると、年老いた利用客にも気持ちが若返ると好評らしい。
「今日は、ベビードールの透け感に合わせても可愛いおむつを探してて……」
　同じような悩みを抱える人は少ないかもしれない。
　だからって、泣いて恥ずかしがったって何も変わらない。

　それなら、いつも通りを自分らしく楽しむために。
　真白は今日も、めいいっぱいのカワイイを、自分にしか出来ないやり方で満喫するのだ。

このページにイラストを設定する