君の音は何色を示す｜リアクション

君の音は何色を示す

　寝子島高等学校の正門を出て、真っ直ぐ南へ。
　信号を２つ越えて寝子ヶ浜交番まで来れば、海岸まであと少しだ。
　見慣れた海、さすがにもう足先を浸けるのも凍えてしまいそうな季節。だけど七夜あおいは、遮断機が上がるのが見えると顔を輝かせた。
「競争ね！」
　冷たい風に首を縮こめていた八神修は、突然駆け出したあおいに少し遅れを取って後を追う。
　体力では彼女に負けることがあっても、気合いを入れて同時スタートだったなら遅れはとらないはずだけど。
　海にはしゃいでいるのか本気で走っているのか、あおいはみるみるうちに先へと行ってしまった。
　なんとか次の列車が来る前に踏切を越えて、３つ目の信号へ。それをも味方に付けたあおいは、海岸へと繋がる階段の前で余裕を浮かべて立っていた。
　けれど、修が渡ろうとする頃には信号は点滅を始めてしまい、思わず踏み出した足を止める。
（急げば渡りきることは出来ただろうけど……）
　そう長くない横断歩道だからか、点滅時間も短くすぐに信号は赤へと切り替わった。
　少し不思議そうに見ているあおいとの間に、車が走り抜ける。

　真面目ではあるけれど、交通ルールを徹底的に守ろうという品行方正さから来る物ではなくて。
　一気に詰めようとする距離に思いとどまった。
　想いを告げたあの日から、追いかけるのは自分ばかりになっていたし、寂しい思いをさせるくらいなら駆け寄るのは自分の仕事でいい。

　――でも、もし。

「あおいっ！」
　何台かの行き交う車が視界から彼女を途切れさせる。
　２度と会えなくなるわけでもないのに、青に変わるまでがもどかしくて、大きな声なら届くかと思って。
「……待っていてくれないか！」
　そう交通量も多くない通りで、脇目も振らずに叫んでいた。
　彼女は、待っていてくれるだろうか。
　辿り着くのを……胸を張って『迎えに来た』と言えるほど、一人前になるのを。
　届いただろうか。
　いつも通りのつもりでいて、いつもと違うニュアンスを秘めたことを。

　信号が変わる。
　走り出したい気持ちを抑えて、きちんと左右を確認してから修は歩み出した。

（奇跡、魔法……それも悪くない。けど、決まっていることがあるんだ）

　この気持ちにつけた名前だけは、譲れない。
　君がこの名前を知らなくたっていい。それはつまり。
　……たぶん、同じ理由だと思うから。

「お待たせ」
「ほんとだよ」
　わざとらしく「寒かった～」なんて言って笑っているあおいのために、出来ることは少ない。
　お互いに手袋を取ってしまっても冷えるだろうし、その頬へ触れるような距離感を許されたわけでもない。
　曖昧な距離感は、ときに理性を試すし不自然じゃないかなと保つのが難しいけれど。
「あ、自販機！　温かいのあるかな、夏のままだったらどうしよう」
　少し離れた先にある自動販売機に暖を求めて、あおいは再び駆け出そうとしてしまう。
　追いかけるのも、待つのも慣れた物だけれど。たまには。
「おごりをかけて競争する？」
　彼女に追いかけられたいし、待っていてもらいたい。

　――でも、やっぱり。

「なんてね」
　手を取り合って、隣を歩きたいなと願っている。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
ファンレターはマスターページから！

みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。

お待たせ致しまして、申し訳ございません。
普段聞かないアーティストさんの楽曲や、イメージに合う作業BGM探しがとても楽しいリアクションでした。

通常のアクションではお聞きできない一面が知れるので、またやってみたいと思います！

ご意見ご感想、もしくは「読んだよ！」の代わりにダイヤリーのページチェック入れて頂けると、めちゃくちゃ喜びます。
お時間ありましたら、よろしくお願いします～！

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