一足お先にブリザード｜リアクション

一足お先にブリザード

◆偶然の出会い

　１２月。寒さも一段と深くなった、本格的な冬の訪れ。

「だからっていきなりブリザード？」

　羽生碧南は強烈な吹雪で目も開けられない。
　とてもじゃないが、今着ているダッフルコート如きでは寒さを防ぐこともできない。一気に身体も冷えて気が遠くなりそうだ。

（このままじゃ遭難まったなし……）

　視界も悪くなる一方で、早く安全な場所に避難しなければならない。そう考えながら雪に埋まる足を持ち上げながら進んでいくと、ぼんやりとした灯りが見えた。近づいてみると、かまくらがたくさんできていた。

（なんでかまくらが？）

　素朴な疑問が沸いたが、それを吹雪がかき消した。

（もうこうなったらそこへ飛び込むまで！）

　中に誰か入っているかもしれないが、そのときは拝み倒すしかない。とにかく一番近くにあるかまくらへ駆け込んだ。

（ふぅ～生き返る～）

　かまくらの中は暖かく、『これがこの世の天国か』と彼女はしみじみ感じた。

「おや、羽生くんじゃないか」
「え？」

　かまくらの主が自分の名前を呼んでいた。

（この声、聞き覚えがある。というか、ありすぎる）

　まさかと思って見たら、そこにいたのは鷹取洋二だった。

「外は吹雪で大変だっただろ？　お茶と駄菓子もあるよ。ま、雪が止むまでゆっくりしていってくれたまえ。はっはっは」

　洋二はいつものように笑っている。しかし碧南はそれどころではない。彼女にとって洋二は片想いの相手。室内温度とは別に、今度は体内温度が急上昇した。

（心臓がものすごくドキドキしてくる。かまくらという密閉空間で片想いの人と一緒にいる……！）

　その事実を改めて認識すると、さらに体温があがるのを感じた。乙女ゲーではこれで一気に仲が進展するわけだが、現実はそう甘くはない。でもこうして洋二と一緒にいられるのは幸せだった。
　軽快に会話を続ける彼に、なんとか相槌を返す碧南。沈黙が一切無かったのは彼女にとって救いだったかもしれない。やがて吹雪は収まり、２人はかまくらを後にした。

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