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NOW！
足払い、手刀、膝蹴り、さらには頭突き、全身武器と化したかのごとく寛美が獰猛に襲いかかれば、これを避け、受け流し、逆襲する志桜里も鬼神の強さを発揮する。
しなる鞭のような寛美の一撃はフェイント、撲つかわりに腕を志桜里の首にかけ首投げを狙った。
志桜里は木の根を張るがごとく踏ん張る。耐える。
だてに二十八センチの大足をしてませんのでね。
それどころか志桜里は体を滑らせカウンター、みずから背後に倒れ寛美の体ごと谷落（たにおとし）に持っていった。
だが浅い。どっともつれあうようにして倒れた姿勢から寛美は蛇のように身をくねらせ、自身の両脚もつかって関節技を狙った。
這う志桜里。
這う寛美。
打撃戦や投げ合いに比べればグランドの攻防はずっと地味に見える。しかし実際はその両者以上に凄絶だ。命のやりとりという意味では格闘の本質でもある。
自分が対戦相手でなければ、口笛のひとつでも吹きたい気分の志桜里だ。
私が痛めた左腕を躊躇なく狙ってきた、それでこそ……です！
腕挫十字固、志桜里の左腕は寛美に自由を奪われた。
がっちり入れば勝敗は確実だったがさきの寸勁が効いている。寛美の左腕の動きは遅れた。志桜里は後頭部を土まみれにして逃れ、逆に寛美の頸に脚を絡めたのである。がっちりと閂（かんぬき）をおろす。
決まった。変形の三角絞めだ。後三角絞（うしろさんかくじめ）とも呼ばれる。プロレスの見せ技と誤解されがちだが実戦的な技である。脚に自信のある志桜里をおいては何をか言わん。もがこうが下がろうが逃れきるのは不可能だ。道場には場外はない。ロープブレイクも。
これで。
タップすればよし、さもなくば落とすまで！
「えっ」と志桜里から声が漏れた。
なんたることか寛美は押した。もがくことをせず膝を立て足を使ってどんどん押したのである。志桜里の背はふたりを見守る門弟たちの輪につっこんでいく。その先は初心者の集団だった。きゃっと声を上げ清子が場所を空けた。
次の瞬間志桜里の背中は硬いものに激突している。
石灯籠だ。
拍子に緩んだ締めの輪に腕を挟み、気合いとともに寛美は技から逃れた。
なんでもないことのように、首をさすりながら寛美は立つ。
やるじゃないですか、と言うかわりに志桜里はウインクした。
あの位置に灯籠があったのは偶然ではあるまい。はじめて道場を訪れたというのに、寛美は庭の配置を覚えていたのだ。
ふたたび激突する。もう無我夢中だ。
もう小細工はなしだ。ストレートな攻防。志桜里にはろっこん使用もできない。三秒も拳をかける余裕など皆無だったから。
打ち合い撃ち合い撲ち合う。
たがいに一糸まとわぬ姿で愛し合っているよう――そんな錯覚を志桜里は覚えている。
いやそれ以上に濃厚でエロティックなまぐわいかもしれない。
技と技の応酬は語り明かすよりも饒舌に、相手に自分をさらけだすことだ。
志桜里は話す。そして聞く。言葉ではなく肉体言語で。
寛美さんがどんな鍛錬を積んできたか、手に取るようにわかるよ。
へえ、今度はタックルですか。愚直かもしれないけど、嫌いじゃないね。
だったら私はこうっ。舞ってみせましょう。
ほうら、痛いでしょ？
おっと倍返し。寛美さんって足技もいい筋してる。
じゃあ次ね。こういうのは好みかな？
ふふ。寛美さんが悦んでるの、わかるよ。
ねえ、私ももっと悦ばせてよ。そう、そんな感じで。
おっと、また左手を狙ってきたね。
まったく、悪い子だよ。じゃあおしおきタイムだ。
それとも私におしおきしてくれるかしら？
楽しい。
楽しい。
本当に楽しい。
加減の要らぬ相手が増えるというのは、こんなにもっ……！
「そこまで！」
無粋と言えば無粋、しかしこれ以上ないタイミングで香蓮はやめを宣言した。
「将来有望な闘士を、ふたりも失うわけにはいきませんからね」
香蓮は左右の手で、志桜里と寛美の手を持ち上げた。
「両者引き分けとします。異存、ありませんね」
志桜里は肩で息をすることしかできない。正直、もうガス欠寸前だった。
寛美も同様らしい。沈黙をもって肯定に代えたのである。
「異議なし！」
最初に手を叩いたのは芹香だ。両手が割れるくらい派手に打ち合わせている。つづいてモヒカン頭の女性が、さらに清子が、そして門弟がそろって派手な喝采を送ったのだ。「よくやった！」と叫びが飛ぶ。下手な口笛を鳴らす者もある。まさしくスタンディングオベーション、数十秒は嵐のような賞賛が継続した。
にっこり笑うと香蓮は言ったのである。
「ではレクリエーションと参りましょう。門下生たちの英気の源を紹介します」
そのセリフ私が言いたかった――と思ったが志桜里はもう、涅槃に飛びそうになる意識を保つので精一杯だった。
しなる鞭のような寛美の一撃はフェイント、撲つかわりに腕を志桜里の首にかけ首投げを狙った。
志桜里は木の根を張るがごとく踏ん張る。耐える。
だてに二十八センチの大足をしてませんのでね。
それどころか志桜里は体を滑らせカウンター、みずから背後に倒れ寛美の体ごと谷落（たにおとし）に持っていった。
だが浅い。どっともつれあうようにして倒れた姿勢から寛美は蛇のように身をくねらせ、自身の両脚もつかって関節技を狙った。
這う志桜里。
這う寛美。
打撃戦や投げ合いに比べればグランドの攻防はずっと地味に見える。しかし実際はその両者以上に凄絶だ。命のやりとりという意味では格闘の本質でもある。
自分が対戦相手でなければ、口笛のひとつでも吹きたい気分の志桜里だ。
私が痛めた左腕を躊躇なく狙ってきた、それでこそ……です！
腕挫十字固、志桜里の左腕は寛美に自由を奪われた。
がっちり入れば勝敗は確実だったがさきの寸勁が効いている。寛美の左腕の動きは遅れた。志桜里は後頭部を土まみれにして逃れ、逆に寛美の頸に脚を絡めたのである。がっちりと閂（かんぬき）をおろす。
決まった。変形の三角絞めだ。後三角絞（うしろさんかくじめ）とも呼ばれる。プロレスの見せ技と誤解されがちだが実戦的な技である。脚に自信のある志桜里をおいては何をか言わん。もがこうが下がろうが逃れきるのは不可能だ。道場には場外はない。ロープブレイクも。
これで。
タップすればよし、さもなくば落とすまで！
「えっ」と志桜里から声が漏れた。
なんたることか寛美は押した。もがくことをせず膝を立て足を使ってどんどん押したのである。志桜里の背はふたりを見守る門弟たちの輪につっこんでいく。その先は初心者の集団だった。きゃっと声を上げ清子が場所を空けた。
次の瞬間志桜里の背中は硬いものに激突している。
石灯籠だ。
拍子に緩んだ締めの輪に腕を挟み、気合いとともに寛美は技から逃れた。
なんでもないことのように、首をさすりながら寛美は立つ。
やるじゃないですか、と言うかわりに志桜里はウインクした。
あの位置に灯籠があったのは偶然ではあるまい。はじめて道場を訪れたというのに、寛美は庭の配置を覚えていたのだ。
ふたたび激突する。もう無我夢中だ。
もう小細工はなしだ。ストレートな攻防。志桜里にはろっこん使用もできない。三秒も拳をかける余裕など皆無だったから。
打ち合い撃ち合い撲ち合う。
たがいに一糸まとわぬ姿で愛し合っているよう――そんな錯覚を志桜里は覚えている。
いやそれ以上に濃厚でエロティックなまぐわいかもしれない。
技と技の応酬は語り明かすよりも饒舌に、相手に自分をさらけだすことだ。
志桜里は話す。そして聞く。言葉ではなく肉体言語で。
寛美さんがどんな鍛錬を積んできたか、手に取るようにわかるよ。
へえ、今度はタックルですか。愚直かもしれないけど、嫌いじゃないね。
だったら私はこうっ。舞ってみせましょう。
ほうら、痛いでしょ？
おっと倍返し。寛美さんって足技もいい筋してる。
じゃあ次ね。こういうのは好みかな？
ふふ。寛美さんが悦んでるの、わかるよ。
ねえ、私ももっと悦ばせてよ。そう、そんな感じで。
おっと、また左手を狙ってきたね。
まったく、悪い子だよ。じゃあおしおきタイムだ。
それとも私におしおきしてくれるかしら？
楽しい。
楽しい。
本当に楽しい。
加減の要らぬ相手が増えるというのは、こんなにもっ……！
「そこまで！」
無粋と言えば無粋、しかしこれ以上ないタイミングで香蓮はやめを宣言した。
「将来有望な闘士を、ふたりも失うわけにはいきませんからね」
香蓮は左右の手で、志桜里と寛美の手を持ち上げた。
「両者引き分けとします。異存、ありませんね」
志桜里は肩で息をすることしかできない。正直、もうガス欠寸前だった。
寛美も同様らしい。沈黙をもって肯定に代えたのである。
「異議なし！」
最初に手を叩いたのは芹香だ。両手が割れるくらい派手に打ち合わせている。つづいてモヒカン頭の女性が、さらに清子が、そして門弟がそろって派手な喝采を送ったのだ。「よくやった！」と叫びが飛ぶ。下手な口笛を鳴らす者もある。まさしくスタンディングオベーション、数十秒は嵐のような賞賛が継続した。
にっこり笑うと香蓮は言ったのである。
「ではレクリエーションと参りましょう。門下生たちの英気の源を紹介します」
そのセリフ私が言いたかった――と思ったが志桜里はもう、涅槃に飛びそうになる意識を保つので精一杯だった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年05月19日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年05月26日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年05月26日 11時00分
