Ｇペンの付喪神、現る！～霊界漫画雑誌を廃刊から救え！｜リアクション

Ｇペンの付喪神、現る！～霊界漫画雑誌を廃刊から救え！

●夜の彼は目が覚める、夜の彼女は女豹になる

　稲積柚春はＧペンのジイさんの来訪を、なにかの番組インタビューだと思い込んでいた。
「最近の番組インタビューは変わってるな。漫画原作の勝手はわからないけど面白そうな物語になればいいんだよね」
　そうして柚春は物語を紡いでみたのである。

　町の外れにある小さな教会だった。
　壁は白く清潔感のあるこじんまりとした建物だ。
　聖職者の男女ふたりがその境界を切り盛りしている。
　柚春とワット。
　彼女と彼は、神の教えを守り慎ましやかに暮らしていた。
「あはは、こらみんな。読み書きの時間だよー」
　明るい太陽の下、子どもたちの笑顔がはじけている。
　黒い修道服に身を包み、髪もベールに包み込んだ柚春はとても淑女で、バザーに出す小物を作ったり家事をしている。子ども達は、ワットから読み書きを習うために通ってきているのだが、勉強よりも遊ぶほうがもちろん楽しいので、柚春の周りを駆けまわっているのだ。
「こらこら。彼女を困らせちゃいけないよぉ。みんな、おいで」
　ワットは穏やかに柚春に微笑んで目くばせする。
　柚春の淑女さと同じくらい彼も紳士で、地域の人の信頼も厚い。
　――昼間は。

　太陽が見ていない時間になると慎ましやかな教会は別の顔に変貌する。
　教会の地下では、訳アリの男女が集まる晩餐会が夜毎に繰り広げられるのだ。
　彼らの中心にいるのは柚春とワットだ。
　高価な調度品に囲まれて、聖職者にあるまじき肉や酒を口にするふたりの顔に、昼間の淑やかさはない。
　妖艶に流される海色と夜色の瞳。
　口元はワインの赤に濡れ、時折、唇を舐める赤い舌はねっとりと闇を絡めとる。
「ふうん、国外逃亡ね……そういう仕事もできなくはないけど」
「情報収集？　命のやりとり？　ふふ……昼の生活を失わない範囲なら気分と金額次第で引き受けるよぉ」
　背もたれの高い椅子にゆったりと腰かけるワットは、膝に乗せた柚春の腰をゆるりと抱き寄せながら微笑む。

　夜は神の見ていない時間。
　彼らは地下で引き受けた仕事のために夜の街を往く。
　黒衣に身を包み、闇の中を駆け抜ける彼らはまるでしなやかな四つ足の獣だ。
「行けるかい？」
「大丈夫、任せて」
　柚春は凄腕のハンターでもある。
　彼とともに夜を駆け抜け、どんな獲物であっても仕留めるのだ。
　今宵の獲物は柚春の倍もある体格の男で、片目の傷が百戦錬磨であることを物語っていたが、ワットと柚春は怯えはしなかった。飛び掛かり、牙を剥き、香りによって意のままにする。
　獲物に馬乗りになり、返り血を浴びた柚春は、冷酷に動かなくなった肉を見つめて、唇についた血を舐めた。
「柚春」
　ワットが後ろから抱きしめてくる。
　柚春はふわりと、神に向けるより甘い顔で微笑んだ。
「仕事は済んだよ……帰ろうワット。僕を、ベッドに連れてって」

　――神に身を捧げていないのだから愛しい人を優先できる。
　――ただ優しく慈しむことも色欲に溺れることも全てが心の赴くまま。

　彼と彼女には昼と夜、二つの顔がある。
　それを完全に知るのは、お互いだけ――

　付喪神ペン先ーズ先生たちの作画によって仕上がった原稿の最後のページには、寝室の窓から差し込む月明りに逆光の中、女豹となった柚春と、彼女に組み敷かれるワット、ふたりのシルエットが見開きで妖艶に描かれていた。
「これは……期待以上、です」
　柚春は思わず赤面し、両手で顔を覆う。
　けれど目を離せなくて、指の隙間から何度も原稿をガン見してしまう。
　完成原稿を持ってきたＧペンのジイさんも興奮気味だ。
「セクシー、かつ、バイオレンス！　主人公ふたりの二面性もたまりません！」
「そ、そう？　絵になって改めてみると、恥ずかしい気もするけど……」
「これは読者にウケますぞ！」
「主人公の柚春の修道服のスリット、かなり際どいよね」
「それがいいのです！」
「……うん」
　柚春の脳内では、原稿の中の二人が最後のページの続きを演じていた。
　このスリットを、ワットの手が割って、その中に――……
（はわわぁぁぁ、そんな、ワットが！　でも、きっと気分次第で甘えたり女豹をも組み敷く猛獣となったりしちゃうんだ。太腿とかに所有印をつけたがったりして……）
　いい。
　すごくいい。
「ジイさん、お願いがあるんだ。ちょっと付け加えてほしいシーンがあるんだけど」
　原作者として妄想が捗る柚春であった。

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