サンマなりきりののこさん、街を征く｜リアクション

サンマなりきりののこさん、街を征く

　やがてそのパレードが街の半分を歩き尽くした後、きぐるみ集団は一人の女性――旅鴉月詠を見つける。
　彼女は現在、片手にスケッチブックを携えて絵を描けそうな現場を探していたところで、珍妙集団もといきぐるみパレードと出会ったのだ。

「え……何、この……何？」

　思わずドン引きしてしまった月詠。
　目の前のサンマくん２体とマンボウくん３体の威圧にちょっと後退りしていたが、これこれこういうことで、一緒に宣伝してほしいなと伝えたののこ。
　しかし月詠は少しだけ考え、『絵が描けなくなるのでノーセンキュー』を伝える。今は絵を描きたいのだ、と。

「むぅ。食事券もらえるから、それでパーティしたかったなぁ」
「食事券？」

　思わず食事券に反応した月詠。
　貰えるのであれば参加はしたいが……残念ながら食事券が貰えるのは、きぐるみの宣伝をした者のみ。
　つまり、現状はきぐるみを着て参加しているののこ、ラッセル、英二、想花、朝衣の５人だけが条件を満たしているわけで。

「ふむ、なるほど……それなら君達を絵に描かせてくれないだろうか？」
「え？　どうして？」
「そうして宣伝に回るのもいいが、ポスターイラストというのも必要だろう？」

　そう言ってスケッチブックを開いた月詠。
　その後すぐに彼女の意図に気づいたのはリッカルド町長の秘書である朝衣だった。

　ポスターというのは思ったよりも人の目に付きやすく、本物がなくても「そういうものがあるんだ」という意識を植え付けることが出来る。
　しかし現状、サンマくんとマンボウくんのきぐるみを着て宣伝するというのが主になっているため、ポスターの配備などは一切考えられていない。
　なのでここで月詠にイラストを描いてもらい、それらを宣伝用のポスターとして作るのもありかもしれない、と。

「５分。５分あればラフは終わるから、それぞれ思い思いにポーズを取ってくれ」
「どんなポーズでもいいのね？」
「そうだな、そこでこっちでちょっと脚色加えたりするから」
「それじゃあ、皆ポーズとってみましょうか。きつい体勢はしなくていいから」

　朝衣の声とともに、それぞれがポーズを取り始める。
　なにかに追いかけられるポーズ、戦うポーズ、バンザイするポーズなどなど思い思いのポーズを取って５分ほど固まり、月詠を待つ。

　月詠はサラサラとスケッチブックに下書き用の鉛筆を走らせ、簡単なラフ構図を作り出す。
　それぞれが取ってくれたポーズが大きい猫を討伐するようなポーズにも見えたため、背景として大きな猫を描いてみた。

「何故、今まできぐるみの商品化がなかったのかを考えたことってあるか？」
「ふむ。顔が見えてしまって、イメージダウンになるから？」
「それもある。……いや、まあ、本物は、アレは謎生物だし？」
「そう……ね……？」

　ラフ出しをしながら月詠は様々な考察を重ねてみるが、顔を出さないやつじゃなくて良かったなと思ったりもした。

　――だって、そうすると本物と見分けがつかなくなるから！