『運命』ではなかった始まりを『必然』に変えたあなたへ｜リアクション

『運命』ではなかった始まりを『必然』に変えたあなたへ

　冬の夕暮れは早い。それも、楽しい時間ともなればなおさらだ。
　園内にあるホテルのレストランで夕食を摂る２人は、今日の写真を見返しながら語り合っている。
「噴水にコインは聞くけれど、まさか井戸に投げ入れるなんてねぇ」
「ちゃんとお願いを聞き届けてくれたみたいなタイミングで音楽が流れて素敵だったよね」
　井戸の上にはキューピッドに扮するチャーミィの像が飾られていて、特にどんな願いに御利益があるのかは容易に察することができる。だからウォルターは、そこが柚春の１番行きたかった所なのかと思っていたのだけれど。そこから何かに引っ張るわけでもなく、柚春は井戸の話題はそこそこに次の写真を開いた。
「あと、お城の壁画！　本物の宝石があるって、知ってたの？」
「それは調べてなかったけど……あそこだけ人が集まってたし、何かあるなぁと思ってねぇ」
　きちんと磨かれていたわけでもなかったし、そういった意味ではガラスタイルで作られた壁画の他の部分のほうが触られていない分輝いていた。
　見付けられてよっぽど嬉しかったのか、柚春は２人で壁画のティアラ部分に埋め込まれたダイヤモンドを指さした写真をニコニコと眺めている。
「これね、２人で触るといいことがあるんだよ。あ、でも……」
　何かを思い出して神妙な顔をする柚春は、とても幸先が良さそうな顔はしていない。
「おまじないみたいなものでしょ、効果なんてあとからついてくるよ」
「そ、そうだよね。無効じゃないよねっ！　お城の写真だってちゃんと撮れたし、通り抜けるときだって」
　何度も頷いて言い聞かせる柚春には重要なことのようで、「もう行きそびれたところはないかな」と熱心に写真をスクロールしている。
　当然、そのどれもに『恋人同士で行うと永遠の愛で結ばれる』といったジンクスがあるなど、ウォルターは思いもしないのだけど。
「……お願いが叶ったら、お礼に来るんでしょ？」
　それは、猫恋の鐘をもう一度鳴らそうと誘ったときの柚春の言葉。
　気分屋な彼による、次があると思ってしまう言葉。
「また一緒に来ようね」
「そうだねぇ。１日じゃアトラクションも全部乗り切れなかったし、季節のイベントも良さそうだし」
　次に来るときは、関係が変わっているかもしれない。『恋人同士』でしなければならなかったおまじないも、今度こそ。
（そしたら、あの場所で）
　偶然じゃない、確かな想いをこめて――秘密のキスも、できるだろうか。
「約束だよ？」
「都合が付けばねぇ」
　ふふりと笑いあっているうちに、テラス席が開放された。海のエリアはパレードではなく、広い水上ショーとなるため、ここからでも十分観賞できるようだ。
　昼のパレードと違って立ち見ではあるが、レストランの利用者しかいないテラス席は不快なほど混雑もしていない。それでも、他のゲストに配慮をしてか、クリスマス仕様にライトアップされた園内を見るからか、自然と肩を寄せ合っている人のほうが多いようだ。
　壮大な音楽と共に、船がやってくる。これは、ハッピィがまだ見ぬ世界にいる友だちを探すため、冒険に出るお話だ。
　童話の海を渡る船は、悪役の妨害に戦う術を持たない。ハッピィたちは誰１人魔法を使えなくて、笑いものになりながら命からがら切り抜ける。
　その途中で、仲間たちは気付いた。元気づける歌に癒やしの力があることを、仲間のピンチに立ち向かう勇気が、船ごと防壁に包む力になることを。
　心が魔法となり、思いは力になると気付いたハッピィは、小さな星に語りかける。

　――ボクは魔法が使えないんじゃない。魔法を使えることを知らないだけなんだ！

　諦めない心を受けた星は輝きを増し、それを見た仲間たちにも希望の明かりが広がっていく。

　――イメージしてみて！　ボクらが力を合わせれば、ドラゴンだって倒せるって。

　鑑賞席のゲストから思いの力を受け取るようにハッピィが両腕を広げる。思いは光る剣になり、ドラゴンへ閃光が襲いかかった。
（心の底から信じれば……願いは、叶う）
　ニャンドは『夢とハピネスの大陸』と『魔法とアドベンチャーの海』の名の通り、夢のように幸せな時間を演出し、ワクワクする冒険も体験出来た。
　そして何より――勇気を、誰もが想いの強さという魔法を持っていると教えてくれた。それは０時になったら解けてしまう一時の魔法ではなくて、この非日常の世界だけが見せる幻でもない。
（夢や偶然じゃ無くて、実現するための魔法）
　偶然を引き寄せられるのも素敵だし、そのおかげで自覚した想いもある。
　けれど、ずっとそれに頼っているわけにもいかない。いつまでも待っているだけではいないと、決めたから。

　夢の時間はあっという間だ。
　だけど魔法は信じる限り……諦めない限り、続くのかもしれない。

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