『運命』ではなかった始まりを『必然』に変えたあなたへ｜リアクション

『運命』ではなかった始まりを『必然』に変えたあなたへ

　夢の国と呼ばれる巨大なテーマパークは、12月のちょっぴり冷たい風も気にならないほどワクワクさせる。
　工夫がなされて外界から切り離されている『夢とハピネスの大陸』と、あえて外界を見せることで不自然無くテーマと融合させた『魔法とアドベンチャーの海』の２大テーマからなるNIKUKYU　NYANDは、オリジナルキャラクターはもちろん、誰もが知っている童話にニャンドアレンジを加えた物も楽しめる。
　そんなニャンドのシンボルマーク的存在であるのは、大陸側の中央に位置するチャーミィズ・キャッスルだ。
　来園者は家族連れであろうが、遠足中の学生であろうが、誰だってこの城を背景に記念写真を撮っていく。
　それくらい人気スポットともなると、大抵の人は混雑を避け手早く写真を撮ることを優先してしまいがちだ。
　少々城が見切れてしまっても、そうとわかればいい――という妥協は、なぜか恋人たちにはないらしい。
「次の方どうぞ！」
　今か今かと待ちわびていた稲積柚春は、自分のスマートフォンをクルーに預けてウォルター・Bを仰ぎ見る。
　その期待に満ちた目に仕方ないなという顔をして、ウォルターは同じようにスマホを預けた。
「どうしても、ここじゃないとダメだったの？」
「ダメだったの！」
　上機嫌に微笑む柚春は、ウォルターの左手をとってクルーに指示されたポイントに立つ。
　ニャンドに到着する前からこの調子なので、余程今日の約束を楽しみにしていたのかと思っているウォルターは、自分の気まぐれがこうさせているのだとは気づきもしなかった。

　花は見て楽しむこともできるが、様々な花言葉に思いを偲ばせることもできる。
　それと同じように、アクセサリーにもまた、身につけるアイテムや場所に意味を含ませることができた。
　けれど花言葉と同じように、誰もが知っているとは限らない。有名な逸話もあれば、国ごとの風習による違いもあるし、意味が複数あることもある。
　……何より、気にしない人だっている。どちらかと言えば、ウォルターもそのタイプだ。
　意味があろうがなかろうが、好きな物を好きなように楽しめばいいと思う派で、知っているかどうかは関係ない。ただ、柚春と一緒に出かけるのであれば、彼女から贈られたラピスラズリ風のピアスを付けてみようか、くらいの気遣いをすることは出来る。
　彼女はいつも右だけにピアスをつけている、なら片方だけにしてみようか。だったら男性は、左耳が主流だったかな……という程度の軽い気持ちが、柚春を舞い上がらせることになってしまった。

　昔々、男性は右手に武器を、左手には守るべき愛しい人をという時代。愛する人に見立てたお守りとして、男性は左耳にピアスを飾るようになり、その対となるピアスは守りたい女性へと贈られるようになった。
　男性の左側に立つのなら、女性から見れば愛する人は右側になる。だから女性は右耳にピアスをすることで、離れていても愛しい人とは常に一緒……互いに想い合う男女が身につける象徴になったという話ができた。
　しかし、柚春とウォルターのピアスは分かち合ったものではない。一見しただけではデザインもまるで違う、共通点の無いものだ。
　けれど、彼から柚春に贈られたロンドンブルートパーズ風ピアスは、同じ露天で購入された物で、コッソリと揃えのような所がある。石の色も互いの瞳色を交換したかのようだし、諸々と彼に告げていない願いも込められていたりする。
　少なくとも、柚春にとってはとても思い入れが強いアクセサリーには違いない。
　そんなピアスまでバッチリ映った記念写真は、熟練のクルーによって寸分の狂いも無く、城を正面から見切れなく撮影されている。
「凄いねぇ。お城のベストポジションだったんだ」
　これは並んだかいがあったねと笑うウォルターは、きっと知らない。
「でしょ？　撮るならここじゃないと！」
　ニャンドの人気キャラクター、ハッピィとチャーミィの仲睦まじさにあやかったフォトスポット。
　そこで撮影した２人が、永遠の幸せに包まれると言われていることは――今は、ナイショ。

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