【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！｜リアクション

【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！

●なぜ崖下に「LUCK COMING」

　――朝衣は、なぜか崖下に迷い込んでいた。
「『LUCK COMING』（いい発音で！）……」
　らっかみ……。
「何でこんなところに店があるわけ？　……あ、カフェもある」
　らっかふぇ……。
「……ちょうど小腹もすいたし、寄ってみようかな」

◇

「いらっしゃいませ」
　お定まりの言葉を口にしつつ、月原想花は困惑していた。
　なぜ自分はカフェでバイトをしているのか。
　しかも「寝子島♡LOVE」と書かれたＴシャツにジーンズ姿で。

（というか、崖下になんでカフェなんかあるわけ？そこからして既に意味不明なんだけど）

　想花がアルバイトをしている『らっかふぇ』は、寝子島グッズの店『LUCK COMING』に併設されている。
　しかも、店長は――。

「わーい、いらっしゃいませ！　お店屋さんごっこしてるみたいで楽しいー！」
　めちゃんこ能天気な野々ののこである。
　先ほど、どうしてここでバイトしているのか自問自答したが、答えはシンプル。
　寝子島からこの江ノ島へ飛ばされて、どうしたらいいんだとパニックに陥りかけたときに、ののこに『バイトしない？』と声を掛けられたからである。
　なぜ崖下、とか、なぜののこ店長、とか、そういうことは疑問に思っても仕方がないのだ。
（しかしこんなところにも客はそれなりに来るのだからわけわかんない）
　来客した朝衣を席に案内する想花は、少々愛想に欠けている。
　にっこり笑顔で、声も高く、いらっしゃいませーっと花を飛ばす感じで言えたらいいのだろうが、そういうのは性に合わないのだ。今年の夏休みは海の家やビアガーデンでバイトしたので接客自体はできるのだが、あまり好きではないのであった。
　それでもこうなったら開き直るしかないと悟り、こうしてバイトしているわけである。
　幸い朝衣は、想花の仏頂面をあまり気にすることなく、神魂の香りがするコーヒーと猫ケーキのセットを注文した。想花は淡々とオーダーを受け、淡々とそれらを朝衣に出した。
　朝衣はコーヒーを嗅いで、深く深呼吸した。
「ふーっ、人心地着くわね」
　ふつうにいい香りだ。
「どのへんが神魂の香りなんだろう？」
「さあ……」
　想花も首を傾げる。
「ま、美味しければいっか」
「そう言っていただけると」
　朝衣と想花は顔を見合わせてくすっと笑う。
　ののこ店長という時点で、あまり細かいことを気にしてはいけないのだ。

　コーヒーと猫ケーキを楽しんだ朝衣は、グッズショップで「LUCK COMING」ではシーグラス・キーホルダーを購入した。いい思い出になりそうだ。