【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！｜リアクション

【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！

●プロローグ：何故かそこは寝子島ではなくて

　朝。
　真境名アリサは寝子島は旧市街にあるアパートの自室で、いつものように目を覚ました。
「んー、爽やか！　今日は仕事お休みっ！」
　とはいえ、ぐうたらすごすつもりはない。
　アリサは木天蓼市内にある水着ガールズバー「ジュエル」のキャスト兼副店長である。この仕事は身体が資本なので、休みの日だからといってだらだらして、腰回りや二の腕をたぷんとさせるわけにはいかないのだ。
　そんなわけでアリサはウォーキングに出た。
　向かうは寝子ヶ浜海岸……だったはずである。

「……あれ？　この辺にこんな建物あったっけ？　それにここから鎌倉って近くに見えた？」
　おかしい、何かがおかしい。
　たどり着いた場所は海の見える緑の多い公園だ。それはいい。
　だが、海の向こうに見えるものが、寝子ヶ浜海浜公園のそれではない。
　本土の街並みがみえる。
　本土と島とをつなぐ橋が見える。
　橋は寝子島大橋かと思ったが、何度目を擦ってみても違う。寝子電の線路がない。
　そのかわりに、たくさんの観光客らしき人々が徒歩で橋を渡っている。
「どこ、ここ」
　アリサはあたりを見回した。
　すると近くに飲食店が軒を連ねていた。
　看板や幟のあちこちに「江ノ島」と書かれている。
「江ノ島？　寝子島にそんな地名あったっけ？」
　アリサが困惑していると、同じように困惑した顔の女性に出くわした。
「もしやあなたは寝子島の人？」
「そういうあなたも？」
　三折部朝衣、寝子島町役場勤務の２１才。朝衣も困惑していた。
「婚約者と一緒だったんだけど……」
「ひとりでここに来ちゃったのね」
　アリサはふぅっとため息を吐く。
　「ひと」とはいえ、寝子島に住んで数年になる。
　理解できないことが起きても、さすがにパニックになったりはしない。
「何だか知らないけど、寝子島特有の不可思議現象かしらね」
「それって要するに『異世界転生』ってこと？」
「転生とは違うんじゃない？　あたしたち、死んでないし」
「そうね……異世界って感じでもないしね。この島のサイズが寝子島ほど大きくもない、という点や、寝子島ほど都市化されていないことを除けば、現代とあんまり変わらないみたいだし……」
「まあ、しばらくしたらまた元に戻るんじゃない？」
　アリサ、けっこう呑気である。
「それよりせっかくだからすこし歩いてみない？」
　アリサはそう言って朝衣を誘った。
「ありがたいわ。ひとりでちょっと心細かったの」
　ふたりは広場を出てすぐの観光案内所で、江ノ島の情報収集した。
　パンフレットを貰い、二人で覗き込んで、わいのわいの。
　アリサが指差したのは、地図上のエスカレーターだ。
「まずはこの、江ノ島エスカーっていうのに乗って上に上がってみない？」
「いいわね。エスカレーターなんて寝子島にはないから新鮮」
「寝子島だったら……九夜山にエスカレーターって感じ？　寝子温泉から山頂までの長ーいの」
「面白そうだけれど、行政的には維持費のこと考えちゃうわ」
「あはは、そうね！　それより、小さい島だから一周もできそうよね」
　ワクワクしてきた。ちょっとした小旅行気分だ。
　アリサと朝衣は賑やかに、江ノ島エスカーの乗り場へと歩いてゆく。

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