【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！｜リアクション

【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！

●江島神社に行ってみよう

　さてそのころ。
　江ノ島エスカーで島のてっぺんまで登った三折部朝衣と真境名アリサは、サムエル・コッキング苑をのんびり巡っていた。
「江ノ島ってこんな場所があったんだ」
　咲き乱れる花々にうっとりとする朝衣。
　一方のアリサはあちこちスマホのカメラで撮影している。
「見て、温室の遺構だって。サムエル・コッキング氏は明治の時代に温室を作ったっていうんだからすごいわよね」

「こういう場所で遥人と一緒に巡ってみたいな。特にどうって言うことない場所を、ふたりで……」
　遥人、という男の名前が朝衣の口からさりげなく出たのを、アリサは聞き逃さなかった。
「あら、彼氏？」
「……婚約者なの」
「なになに。その話もっと詳しく！」
　食いつくアリサ。
　そのあと植物園とシーキャンドルの展望台を見て回る間中、朝衣とコイバナに花を咲かせたアリサは、
「いいなあ」
　その一言に尽きる、という結論に達した。

◇

　七瀬と分かれた水守流は、仲見世通りのほうからと階段を上ってやってきた。
　赤い鳥居があり、そのまえにしゃもじのような形の看板がある。
　近づいていくと、それはしゃもじではなくて、楽器の琵琶だとわかった。
　書かれている文字を読み上げる。
「江島神社……日本三大弁財天……」
　ちなみに三大弁財天の残りの二つは、安芸の宮島、琵琶湖の竹生島である。
「えっと、弁財天っていったら音楽をつかさどる神様だったっけか？」
　その通りである。七福神の舟に乗っている琵琶をもった女性が弁財天だ。
「七福神の一人で紅一点ってのは覚えてるんだけど、あまり細かいとこはおぼえてねーんだよなぁ」
　もとはヒンドゥー教の女神サラスヴァティーが、仏教に取り込まれて弁財天になったと言われている。
「何に関してお参りするのがいいんだろうかね？」
　流はパンフレットを開いてみた。
「あ、弁財天って財福や知恵の加護もあるんすか。学生は勉学に関してお参りしていくことが多い、なるほど。それじゃ俺も成績アップをお祈りしてってみるかな」
　竜宮城の入り口みたいな形をした白い楼門を潜って、江ノ島に三つある宮のうち一番近い辺津宮へやってきた流は、巾着の形をした珍しい賽銭箱にお賽銭を入れ、パンパンと柏手を打った。
「受験もあるし、ご利益がありますように！」
　
　参拝を終え、すっきりした気持ちになった流の耳に「寝子島」という単語が飛び込んで来た。
　あたりを見回すと、辺津宮の社殿のそばに大きな「茅の輪」が置かれており、二人の二十代くらいの女性たちが茅の輪をくぐっている。アリサと朝衣である。
「江ノ島神社では茅の輪を８の字にくぐるとご利益があるらしいわよ、朝衣」
「寝子島神社にはないわね。穢れが落とされ、身を清めることができる、って書いてある」
「こういうのに弱いのよね。いい出会いのために、穢れを払わなくちゃ。８の字、８の字……」
　アリサは熱心に茅の輪をくぐる。
　続いて朝衣も。
「あのー、お姉さんたち、もしや寝子島の人？」
　流が声を掛けると、アリサと朝衣はにこっと頷き、
「君もくぐっときなよ。厄払い、厄払い」
　と流の背を押した。
「ア、ハイ」
　言われるままに茅の輪くぐりをする流。
　お姉さんたちも、異変慣れしすぎている寝子島民の典型であるらしい。
　少し話して、流が仲見世通りで食べ歩きをしてきたことを知ったアリサは
「何が美味しかった？」
　とリサーチをした。
「団子と甘酒。たこせんも美味かったし……あ、しらす丼は寝子島のと食べ比べする価値あるんじゃねーかな」
「しらす丼いいわね！　ありがと、少年！　ばいばい！」

◇

　それからアリサと朝衣は、恋人の丘へ行って、そこで猫恋の鐘ならぬ龍恋の鐘を鳴らした。
　通りのほうへ戻ってきて、オススメされたしらす丼を食べてお腹もいっぱい。
　江ノ島を堪能した二人は、そのあとはお土産を買うために別行動をすることにした。
「江ノ島みやげは、縁結びのお守りにしようかしら」
　朝衣のコイバナに触発されたアリサは、２つのハートをあしらったキュートなお守りを買った。

　そして、朝衣は――。