【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！｜リアクション

【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！

●サムエル・コッキング苑にて、かの人に出逢う

　流と分かれた倉前七瀬は、たこせん片手にのんびりと歩き、サムエル・コッキング苑にやってきた。ここは苑の名ともなっているサムエル・コッキング氏が作った和洋折衷庭園の跡地で、いまも南国風の樹木や花々、中華風の東屋など、シノワズリ趣味的な風情が魅力だ。そして、この植物園内に、江ノ島のシンボルであるシーキャンドルも建っているのである。
　ぐるりと庭園を見て回って、シーキャンドルの足元までやって来た七瀬は、そこで見知った顔を見かけ、嬉しくなって声をかけた。

「ウォルターさん！！　奇遇ですねぇ！！」

「あれぇ？」
　振り返った金の髪のその人は、ウォルター・Bである。
　ウォルターもこの江ノ島に来てしまっていたとは。
　寝子島とは違うこの場所で会えて、七瀬は、より嬉しく思う。
「あ、僕のこと覚えてます……？」
「覚えてるよぉ。倉前でしょ」
　良かった。でも江ノ島に来ちゃったことをどう認識しているかわからないから、あんまり無用なことは言わずにおこう。
「僕、これから展望台に行こうと思っとるんやけど、ウォルターさんも一緒に行きませんか？」
「いいよぉ」
　断られたらどうしようかと思っていたが、そんなことはなく快諾だったので、七瀬はウォルターといっしょにシーキャンドルのてっぺんまで上ることにした。

　シーキャンドルは、展望灯台である。
　ろうそく型の塔のてっぺんには円形の展望フロアがあり、湘南の海を一望できる。
　塔の中心を貫くエレベーターで上まで上がると、３６０度ガラス張りの窓があり、海の青と島の緑が目に飛び込んできて――。
「おお～。やはり高いところからの景色は違いますね！」
　七瀬は思わず感嘆の声をあげる。
「そうだねぇ。なんだか可愛い島だねぇ。歩いている人まで見えるよ」
「ええ……」
　それは幾ばくかの寂寥感。
　島の全体を見ると、本当に寝子島ではないのだなと思い知る。
（このまま混ざってしまうとでしょうか。でも、……）
「ウォルターさんがいるなら、僕はどっちでもいいかも」
「え？」
「なんでもなかとです」
　七瀬はふふ、と笑ってみせた。

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