【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！｜リアクション

【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！

●竜神を鎮めよ・その１

「寝子島のやつはいるか？　声が聞こえたら手を貸してくれ。
　寝子島とこの島が融合しちまった！」

　頭に響くテオの呼びかけに応え、江ノ島神社の奥津宮のさらに先、江ノ島の最奥部にある洞窟にやってきたのは、椎井莉鳥と京極花音のふたりであった。
「ふたりなのね。……少し心もとないけれど」
「このままってわけにはいかないからな。やれることをやるだけだ」
　その昔、弘法大師や日蓮上人も修行したという岩屋は薄暗くも神秘的で、江ノ島の始まりの場所と言われている。寝子島と江ノ島の融合の原因と思われるのは竜神だ。もとはこの岩屋の奥に祀られている像で、大きさは約２メートル。よく太ったワニが上半身を起こしているような、といえば伝わるだろうか。青緑色の体表で、牙だらけの口を大きく開けた頭には、金の眉毛に金の角。手には金の珠を持っている。
　竜神の瞳は赤く光り、我を失っているようにみえる。
　竜神が唸り声をあげると、岩屋の中に稲妻が走る。
「いきなりの歓迎ね」
　莉鳥は、稲光を避け物陰に身を隠すと、そうため息をついた。
「人の祈りを受けすぎて穢れてしまったってテオは言っていたわね」
「聞いてはいたが、凄まじい暴れっぷりだな」
　花音も莉鳥の隣で機を伺う。
（心霊だの幽霊だのには恐怖心しか湧かないが、神様となると不思議と苦手意識がなくなるんだな）
　花音は自分の心のうちを観察して、そんな発見をしていた。
　顔を出した途端に、また稲光。
　すぐさま顔を引っ込める。
「根気と力比べになりそうだが、俺も力には自信がある。無事に穢れを払ってやれればいいんだが……」
「そうね」
「それにしても、人の祈りを受けすぎて穢れてしまったなんて実に気の毒だ。苦しい時の神頼みなんて気持ちは分からないでもないが、何でも全て神様に背負い込ませようとする人間も実に自分勝手だ」
「同意するけど、だからって同情してもいられないわ。竜神をねじ伏せたうえで、竜神を浄化させるわよ」
　物陰から飛び出した莉鳥が、目を閉じて指先に気を集中させる。
「稲妻には稲妻！」
　――＜スタンハンド＞！
　指先から放たれた電気が、竜神へ直撃する。
「グオオ！」
　油断していたのか避けもしなかった竜神は咆哮をあげた。
　が、体表は分厚く、致命傷には至っていない。
　怒りに駆られた竜神は、大きく口を開け、さらに強烈な稲妻を放ってくる。
「ッ」
「くそっ」
　莉鳥と花音はそれぞれ逆方向に避ける。そのほうが敵も狙いを定めにくいだろうと思ったからだ。
　莉鳥が＜スタンハンド＞で応戦するが、流石は竜神というべきか、疲れ知らずの稲妻攻撃だ。
　なんとか避けることはできるが――。
「かわすばかりじゃあ、埒が明かないわ。竜神を押さえこめないかしら」
「そうしたいのは、やまやまなんだが」
　じりじりと時が過ぎる。
　花音は攻めるタイミングを見定めあぐねていた。
（あの稲妻さえなければ！）
　そのときである。
　岩屋に、援軍がやってきたのは。