【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！｜リアクション

【エイプリルフール】『幻』の江ノ島へ！

●名残惜しくも

　竜神がくれた１時間。
　その猶予で、椎井莉鳥は江ノ島を少しだけ見物してゆくことにした。
「寝子島にも帰れそうだし、安心したぜ」
　京極花音もいっしょだ。
　誰かとつるむタイプではない二人であったが、一緒に戦った縁で花音が莉鳥に声を掛けたのだ。
（……本当は、折角の『江ノ島』を好きな子と観光デート……なんてしたい気持ちも大いにあったが、
これはこれで十分貴重な経験だったな）
　強面ではあるが、心は恋する男子な花音。
（あ、せめて何か１つ土産でも買って帰るぐらいなら……！）
　とは思ったものの、女子が喜びそうなお土産がなんなのか、ピンとこない。
　そこで莉鳥にご教示願ったわけである。

「いつ会えるか分からない相手なら食べ物は避けた方が無難よ。
高価そうなアクセサリーも相手にとっては重いわ」

「そ、そうなのか……じゃあ何が……」
　そのとき花音の目に、色鮮やかな小瓶たちが飛び込んで来た。
　カラフルに染めた砂と小さな貝が入っている。
「幸せの星の砂……」
　花音は心がほんわりと暖かくなるのを感じた。
「決めた。これにするぜ」
　花音は星の砂の小瓶を二つ買った。一つは自分用。もう一つは、あの人に……。
「いいものが見つかったようで良かったわね。私は……これにしようかしら」
　莉鳥が手に取ったのは白い巻貝だ。
　耳に当てると波のような音が幽かに聞こえる。
　寝子島に帰っても、この音が江ノ島のことを思い出させてくれるだろう。
　
◇

　残り時間がわずかだと知っていたわけではなかったが、宮祀智瑜は桐島義弘先生とともに江島神社を訪れていた。
（縁結びのご利益があるみたいです。義弘先生との縁結びを期待して）
　先を歩く桐島先生の腕に飛びついて、胸を押し付けるように腕を組む。
「う、わ？」
　恋人同士に見えるかな？　なんて、たくらみのある可愛らしい笑顔で智瑜は笑った。
「ふふっ、義弘さん、大好きです」

◇

　一方、稲積柚春もウォルター・B先生と江島神社を参拝中であった。
「むすびの樹……ご神木の根がひとつなんだね。絵馬書いてみようよ。寝子島じゃないなら、誰も見ないでしょ？」
　女子たちはここぞとばかりに積極的である。
　早速、絵馬を買いに駆けてゆく柚春。
（このハートの中に二人の名前を書いて、もっと深く強く二人が結ばれますように願いをこめて）
　ウキウキの柚春だが、ウォルターはなんだか放心している。
　柚春が持っている黄色い『LUCK COMING』の紙袋の中に『ブラジャーなし』の例のあれが入っているからである。それは僕じゃないよぉ……とか、祭壇はヤメテぇ……とか、ぶつぶつ言っているが、柚春はお構いなしに腕を絡める。