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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
GOOD BYE YESTERDAY
許可をもらって柚春はウォルターの寝室に入った。
つい心の中で言い訳をしてしまう。
カーテンを付け替えるだけ、だから。
主のいないプライベートルームにひとりで立ち入るというのは、こっそりとウォルターの秘密をのぞいているみたいで胸が高鳴った。
無人の部屋なのに、立ち入ったとたん柚春は自分以外の気配を感じた。まるでウォルターがここにいるかのような。
そっか。
ワットの匂い、だよね。
彼に抱きついたとき、彼と新郎新婦に扮しガータートスの予行演習（？）を体験したとき、パッキーゲームという偶然に力を借り彼と唇と唇で触れあったとき、いずれもウォルターの肌に感じた若草のような香りを、柚春は感じているのだった。当然といえば当然かもしれない。ウォルターはここで寝起きしているのだから。今朝だって、この部屋で目覚めたのだから。
香りを胸に吸い込む。目を閉じる。
たったそれだけで、彼が真横に立っているような気がした。
ずっとこうしていたいくらいだが、まずはカーテンの交換作業を片付けてしまおう。
「……」
窓を解放して作業したせいか。カーテンを替え終わって窓を閉じると、なんだか彼の気配が薄くなったような気がした。
ワット、出て行ったみたいに。
哀しくなる。でも大丈夫だ。
誰も見ていないのに左右を見渡し、柚春はベッドに飛び乗った。
やっぱりね。
ベッドの上ならワットの気配はたっぷりだ。うっとりして大の字になりまぶたを下ろした。ここにはウォルターの記憶が色濃く滞留している。
記憶。
ブラックウッド邸までの道で考えていたことに想いが及んだ。
忘れられるくらいなら、初めからなかったことにしたほうが辛くない――人との関係にそう結論づけていた柚春だが、今はちがう。
おかしいね。
ワットが当たり前のように「運命はある」と言ってくれたこと。
「君を見てると不思議な気分になる」って手紙をくれたこと。
ちょっとのきっかけだったはずなのに、気付けばジェットコースターに乗せられたみたいに振り回されてる。
なかったことにしたくない。したくないよ。
また引っ越したとしても忘れてほしくない。
今が続いてほしいんからじゃないんだ。
あなたと始まりが迎えられますように、そう願っているからなんだ……！
柚春は袖でごしごしと目頭を拭った。腕はそのままにして目を覆った。勇気がほしくなって、右耳のピアスに触れた。
灰色がかった青色の石のピアス、暗めなこともあってウォルターの瞳の色を彷彿とさせる。冷たくて固くて、けれど、確かにここにあるという手ざわり。
ピアスのおかげだろうか、またいっそう、彼の気配が強まったように思う。
「ワット……」
ぽつりとつぶやいた柚春に、
「なんだい？」
応じる声があった。
「！？」
声にならぬ声を上げ、柚春はがばと跳ね起きた。ベッドサイドにいたのはウォルターその人だ。笑顔を向けてこっちを見ている。
「わわ、ワット！？ いつの間にっ！？」
顔から一兆度の焔がふきあがりそうだ。反射的に柚春は正座してしまった。
「メアリに聞いてねえ。庭の掃除にカーテンの交換、大活躍だったそうじゃないか」
だから、とウォルターは言う。
「疲れてうたた寝してしまったとしても無理はないよねぇ」
そうして今度は声に出してはははと笑った。
「もう少し稲積の寝ている姿、観察していてもよかったのだけど、それはそれで変態チックだし、まあ目が覚めたみたいだし。というわけで声をかけたのさ」
変態チックと言われると、むしろそれ僕のほうこそ言いたくなる。
柚春は彼をまともに見られない。まさか『ワットの匂いを味わいたくてベッドに寝そべりました』とは言えないではないか。うっかり枕に顔をおしつけたりシーツの匂いを嗅いだりしなくて本当によかった。
「それにしてもこの部屋なんだか寒いね。カーテン替えるのに窓あけて作業してたからかな」
「うん、寒いよ」
「そりゃいけない。食卓にでも行こう」
「……いて」
「えっ？」
「ここにいて、ワット。ベッドの上」
ウォルターは何も言わず柚春のすぐそばに腰を下ろした。
「寒いのは心だよ。こうやってベッドのところにワットといたら、ワットの過去、追体験したことを思い出した、から」
あの記憶だ。柚春はウォルターが親友を喪った瞬間やその後に立ち会い、この世界に帰ってきた。
ウォルターはやはり無言だ。目を伏せた。
「あなたを独りにさせない」
柚春はウォルターの背中に身を寄せる。腕を回す。
「独りにさせない、から」
昨日はただの生徒と先生――柚春は思う。
今日もそれは変わらない。きっと明日も。
でも来月は、どうなっているかな。
つい心の中で言い訳をしてしまう。
カーテンを付け替えるだけ、だから。
主のいないプライベートルームにひとりで立ち入るというのは、こっそりとウォルターの秘密をのぞいているみたいで胸が高鳴った。
無人の部屋なのに、立ち入ったとたん柚春は自分以外の気配を感じた。まるでウォルターがここにいるかのような。
そっか。
ワットの匂い、だよね。
彼に抱きついたとき、彼と新郎新婦に扮しガータートスの予行演習（？）を体験したとき、パッキーゲームという偶然に力を借り彼と唇と唇で触れあったとき、いずれもウォルターの肌に感じた若草のような香りを、柚春は感じているのだった。当然といえば当然かもしれない。ウォルターはここで寝起きしているのだから。今朝だって、この部屋で目覚めたのだから。
香りを胸に吸い込む。目を閉じる。
たったそれだけで、彼が真横に立っているような気がした。
ずっとこうしていたいくらいだが、まずはカーテンの交換作業を片付けてしまおう。
「……」
窓を解放して作業したせいか。カーテンを替え終わって窓を閉じると、なんだか彼の気配が薄くなったような気がした。
ワット、出て行ったみたいに。
哀しくなる。でも大丈夫だ。
誰も見ていないのに左右を見渡し、柚春はベッドに飛び乗った。
やっぱりね。
ベッドの上ならワットの気配はたっぷりだ。うっとりして大の字になりまぶたを下ろした。ここにはウォルターの記憶が色濃く滞留している。
記憶。
ブラックウッド邸までの道で考えていたことに想いが及んだ。
忘れられるくらいなら、初めからなかったことにしたほうが辛くない――人との関係にそう結論づけていた柚春だが、今はちがう。
おかしいね。
ワットが当たり前のように「運命はある」と言ってくれたこと。
「君を見てると不思議な気分になる」って手紙をくれたこと。
ちょっとのきっかけだったはずなのに、気付けばジェットコースターに乗せられたみたいに振り回されてる。
なかったことにしたくない。したくないよ。
また引っ越したとしても忘れてほしくない。
今が続いてほしいんからじゃないんだ。
あなたと始まりが迎えられますように、そう願っているからなんだ……！
柚春は袖でごしごしと目頭を拭った。腕はそのままにして目を覆った。勇気がほしくなって、右耳のピアスに触れた。
灰色がかった青色の石のピアス、暗めなこともあってウォルターの瞳の色を彷彿とさせる。冷たくて固くて、けれど、確かにここにあるという手ざわり。
ピアスのおかげだろうか、またいっそう、彼の気配が強まったように思う。
「ワット……」
ぽつりとつぶやいた柚春に、
「なんだい？」
応じる声があった。
「！？」
声にならぬ声を上げ、柚春はがばと跳ね起きた。ベッドサイドにいたのはウォルターその人だ。笑顔を向けてこっちを見ている。
「わわ、ワット！？ いつの間にっ！？」
顔から一兆度の焔がふきあがりそうだ。反射的に柚春は正座してしまった。
「メアリに聞いてねえ。庭の掃除にカーテンの交換、大活躍だったそうじゃないか」
だから、とウォルターは言う。
「疲れてうたた寝してしまったとしても無理はないよねぇ」
そうして今度は声に出してはははと笑った。
「もう少し稲積の寝ている姿、観察していてもよかったのだけど、それはそれで変態チックだし、まあ目が覚めたみたいだし。というわけで声をかけたのさ」
変態チックと言われると、むしろそれ僕のほうこそ言いたくなる。
柚春は彼をまともに見られない。まさか『ワットの匂いを味わいたくてベッドに寝そべりました』とは言えないではないか。うっかり枕に顔をおしつけたりシーツの匂いを嗅いだりしなくて本当によかった。
「それにしてもこの部屋なんだか寒いね。カーテン替えるのに窓あけて作業してたからかな」
「うん、寒いよ」
「そりゃいけない。食卓にでも行こう」
「……いて」
「えっ？」
「ここにいて、ワット。ベッドの上」
ウォルターは何も言わず柚春のすぐそばに腰を下ろした。
「寒いのは心だよ。こうやってベッドのところにワットといたら、ワットの過去、追体験したことを思い出した、から」
あの記憶だ。柚春はウォルターが親友を喪った瞬間やその後に立ち会い、この世界に帰ってきた。
ウォルターはやはり無言だ。目を伏せた。
「あなたを独りにさせない」
柚春はウォルターの背中に身を寄せる。腕を回す。
「独りにさせない、から」
昨日はただの生徒と先生――柚春は思う。
今日もそれは変わらない。きっと明日も。
でも来月は、どうなっているかな。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年03月30日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年04月06日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年04月06日 11時00分
