狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　旧市街にいた宮祀智瑜は逃れる術なく、真っ白な猫に姿を変えた。首には両親が残した形見のリボンを付けていた。
　――この姿は……頭に声が聞こえます。滴ちゃんが苦しんでいるようです。黒猫のサニーもきていて、歩き回っているみたいです。
　智瑜は辺りを見回す。黒猫の姿はなかった。
「猫の直感を信じます」
　海風に誘われるように俊敏な動きで走り出す。
　海の匂いが強くなってきた。少し高い位置に青黒い蝶が飛んでいた。
　――クロアゲハではないようです。それよりもまずはサニーを見つけないと。
　人通りの少ない道を選んで突き進む。寝子島街道を横切り、踏切を急いで渡った。
　目の前に青い海が見える。波は穏やかで異常事態が嘘のようだった。
　智瑜は鼻をヒクヒクさせた。
　――あの建物は魚市場です。猫だから魚の匂いに敏感になるみたいです。
　魚の匂いに釣られた猫達が早足で向かう。
　――サニーも猫なので魚に引き寄せられる可能性があります。
　直接、建物には向かわず、智瑜は道に注意を払う。
　どれほどの時間が過ぎたのか。脇から黒猫が現れた。サニーと認識してそろそろと近づく。
「私は敵ではありません。滴さんに会いたくないですか？」
　サニーは足を止めた。曖浜瑠樹のろっこん、『ゆるゆる和みと恩恵の輪』を受けた影響で警戒心が薄れていた。
「……滴に会いたい」
「私と一緒に滴ちゃんに会いに行きましょう」
　優しい声音で語り掛けて徐々に距離を縮めていく。
　サニーと肩が触れ合った。智瑜はすかさず、心の中で対象を思い浮かべた。
　ろっこん『想い見る』が発動。サニーが求める滴の元へ、智瑜と共に瞬間移動を果たした。

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