狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　小柄な黒猫となった光村千恵は寝子島を彷徨っていた。
「ここ、さっきも来たんだけど」
　猫となっても方向音痴は改善されなかった。行きたいところにいけないもどかしさで、歩き方が定まらない。
　時に走り、十字路で行き先に迷い、決断した先は袋小路だった。
「急がないといけないのに」
「何してるにゃ」
　後ろからの声に千恵は驚いて振り返る。牛柄の猫はかなり大きい。太い脚で近づいてきた。
「迷ったみたいで」
「どこに行きたいのにゃ」
　太々しい態度でいながら意外と優しい。千恵は勇気を出して言った。
「黒白って人を探しているんだけど、わからないよね？」
「知ってるにゃ」
「え、本当に！？」
「情報が出回っているにゃ。今も俺の仲間達が手分けして情報を伝えているにゃ。おまえはどうするつもりにゃ？」
　牛柄の猫は顔を突き出す。値踏みするような目を向けて、どうするにゃ、としっかりした口調で問い掛ける。
「できれば会いたいんだけど」
「青黒い敵を倒すと靄になるにゃ。逃げた方角に黒白という人間がいるにゃ。今だと西南にゃ」
「西南って、あっちよね」
「北東ではないにゃ。仕方ないヤツにゃ。俺に付いてくるにゃ」
「連れていってくれるの？」
「ヘンな形の門までにゃ。その先に行く気はないにゃ」
「うん、それでいいよ。ありがとう」
　牛柄の猫は歩き出す。斜め後ろを千恵が歩いた。
　――私がどうにかしなきゃ。
　自身のろっこんの力を信じて、千恵は力強く歩き始めた。