ハッピーバースデー！　１１月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　１１月☆

　　　11月12日　土曜日

　午前十時、八神修はシーサイドタウンにいた。今日は人と約束があり、待ち合わせの前にいくつか用事をすませてしまおうと考えたのだ。
　楽しみ過ぎて早起きして手持ち無沙汰だった、とかではない。決して。
「あれ？　アニキ？」
　駅前で声をかけられ、修は振り返った。
「ソラ？」
　それは、七夜あおいの弟、七夜ソラであった。
「何してんすか、アニキの家、星ヶ丘っすよね。桜花寮に引っ越したんすか？」
「何のためにそんなことするんだ」
「好きな彼女のため？」
　どきりとした。修の好きな女性があおいであることを、ソラはまだ知らないはずだ。
「本屋に行こうと思って出てきたんだ」
「漫画でも買うんすか」
「好きな作家の新刊が出たから。それと参考書」
「すげー……勉強熱心っすね。さすが受験生！」
「いやお前もだろ」
　思わず突っ込まずにはいられない。ソラは本土の中学三年生。志望校は、姉と同じ寝子高なのだ。
「俺も買うべきっすかね……」
「何なら、見繕ってやろうか？」
「まじっすか。あざっす」
　とたん、ソラの腹からぐ～きゅるる……という音が響く。
「――その前に、なんか食っていいすか？」
「朝飯、食わなかったのか？」
「食いましたよ。おにぎり三つとウーロン茶。コンビニで買って、うち出てすぐに」
　さすがは食べ盛り。食べても食べても足りないらしい。
「それならまずは、腹ごしらえといこうか。奢るよ」
「まじっすか！！　あざっす！！」
　明らかに参考書のときより高いテンションに、修は苦笑せざるを得なかった。

　じゅーじゅーと音を立て、目の前で煙が上がる。
「俺、少し焦げたぐらいがいいっす」
「分かった分かった」
　ソラの目の前でお好み焼きを引っ繰り返しながら――ちなみに修は牛玉、ソラはスペシャルミックスを頼んだ――、修は尋ねた。
「それで？　今日は何しにこっちへ？」
「寝子高の下見っす」
「今更？」
「いやほら、この島、猫多いじゃないすか」
「まさか苦手とか？」
「全然！　むしろ大好きです！」
「それはよかった」
　この島で猫嫌いは、生きていけない。
「あと部活と下宿とかアパートとか。俺、野球部だったんで。寝子高、強いっすか？」
「どうかな。人数はあまり多くない……というかギリギリ。練習熱心なのは確か。後、坊主だぞ」
「まじっすか！　うわー、どうしよう」
　現役時代坊主だったソラは現在、絶賛伸ばし中なのである。
「それより桜花寮に入らないのか？」
「俺、料理は得意なんで。ぶっちゃけ、姉ちゃんより上手いっす」
　ぐっと親指を立て、ソラはにやりとした。「アパートなら、寮や下宿より安く済むでしょ？　寝子高私立だし、うちはまだ下にいるし、俺は男だからセキュリティとかあんまり考えなくていいし」
「色々と考えているんだな」
　修は素直に感心した。子供のようで、やはり六人兄弟の二番目なのだな、と思う。
「ま、それは建前で」
「建前！？　今の全部！？」
　感心して損した。
「いやいや、一応、マジですよ。でも今日でなくても良かったんですけど、もう一個の方は今日じゃないと」
「何の用事だ？」
「俺、昨日が誕生日だったんすよ。だから姉ちゃんになんかせびろうかなーって。逆サプライズバースデー？　みたいな？」
「誕生日？　昨日が？　そりゃおめでとう！」
「あざっす」
「それならもう一枚、奢ろう。食えるだろ？」
「もちろんっす！　それじゃ、もちベーコンチーズ！」
　最初から狙っていたのだろう。メニュー表を見ずに、ソラは注文した。
　ウーロン茶で乾杯しながら、今日のあおいとのデートは中止かな、と思う修であった。