ハッピーバースデー！　１１月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　１１月☆

　　　11月２日　水曜日・その一

　寝子島高校普通科・二年二組、笛吹ぴりりが桜花寮の部屋に帰ると、パン！　と何かが破裂する音が響いた。
　目を真ん丸にして呆然としていると、
「す、すみません！　驚かせてしまいましたか！？」
　同室の愛猫萌々子がおろおろしながら、ぴりりの頭についたクラッカーのテープを一本一本引き剥がす。
「う、うん……ちょっと驚いただけです。大丈夫なのです」
　でも、と続ける。
「何なのです？」
「あの、これ」
　萌々子が赤い花柄の紙袋を差し出した。表には、銀色のリボンが両面テープで貼り付けてある。
「ぴりりちゃん、お誕生日おめでとうございます！」
　ぴりりは虚を突かれたようにぽかんとし、カレンダーに目をやった。
「……そうでした。今日でした」
　一昨日までは覚えていた。が、月曜からこっち、風紀委員会の仕事が忙しくて、すっかり頭から抜けていたのだった。
「ありがとうございます。開けてみてもいいです？」
「もちろんです」
　ぴりりは紙袋を破かないよう、封を開けた。手に持った感触から、丸い缶状のものと小さな箱が入っているのは分かっていた。
　それは、のど飴と喉スプレーだった。
「ぴりりちゃん、笛を吹いたり注意したりで喉を使うでしょう？　喉ケア用のアイテムなので、これなら持っていても校則違反にはなりませんよね？」
　友達へのプレゼント選びなど、小学生以来のことだ。それはもう、悩みに悩んだ。
　気を使わせてもいけないからそれほど高価ではなく、出来れば日常で使えるもの、持っていても校則違反にならないもの。
　そこで思いついたのが、この二つである。
　のど飴は、オレンジベースの缶にハチミツと白やピンクの花が散りばめられ、喉スプレーの箱にはハチと巣のイラストが描かれている。
　どちらもハチミツ入りでほんのり甘く、喉に優しい。
　ちなみに袋とリボンは、百円ショップ「NYAN☆DO」で買って自分でつけた。
　ぴりりはふふふ、と微笑んだ。プレゼントはもちろんだが、懸命に悩んでくれたであろう萌々子の気持ちが何よりも嬉しい。
「それと、ですね」
　萌々子は机に置いてあった四角い箱を持ち上げた。「Raton」のシールが貼ってある。寝子高の近くにある洋菓子店だ。
「小さいカップケーキを二つ、買ってきました。バースデーケーキの代わりです。紅茶もちょっといいのを準備しました」
　紅茶の方は先日の休みに、「シルキー」で調達した。
　萌々子はドキドキしていた。校則違反にはならないはずだが、さすがにカップケーキはやりすぎたかもしれない。
「……そろそろ夕食の時間ですね」
　時計を見て、ぴりりは言った。萌々子の心臓がどくんと鳴った。
「あ、あの」
「早く食べに行きましょう。デザートが楽しみです」
「デザート？」
　今夜のメニューは何だったろうか。デザートと言っても、せいぜい果物が付くぐらいで、「楽しみ」というほどではないはずだ。
　ぴりりの大きな目が悪戯っぽい色に染まる。
「紅茶も、うんとおいしく淹れてくださいね。今日は私の誕生日なんですから」
「――はい！」
　顔を輝かせ、萌々子はぴりりと共に部屋を出た。
「メニューは何でしたっけ？」
「美味しかったら困ります。食べ過ぎちゃったら、どうしましょう」
「知らないんですか？　デザートは別腹なんですよ」
　そんなことを、話しながら。

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