ハッピーバースデー！　１１月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　１１月☆

　　　11月27日　日曜日　・その一

　まどろみの中にいた朝鳥さゆるは、すずめの鳴き声でゆっくりと覚醒した。それは、水の底から水面へゆっくり上がっていくような感覚だった。
　もう朝か、とぼんやりした頭でスマホに手を伸ばし――ぎょっとする。
「じゅっ――！？」
　慌てて口を噤む。すぐ横の姫木じゅんは、さゆるの声にも気づかず、すやすやよく寝ている。
　それも当然か、とため息をつく。
　昨夜遅く――というより、日付が変わって四時間以上も過ぎてから、じゅんは帰宅した。出勤時間が夕方だったから、たっぷり八時間以上働いたことになる。
　いつもは、そんなに勤務しない。昨日は特別だったのだ。
　さゆるがお帰りと言う間もなく抱き着いてきたじゅんと、そのままベッドに雪崩れ込んだ。
　じゅんの性急な求めに、さゆるは応えた。応えることで、さゆるの欲望も高まり、彼女もまたじゅんを求めた。
　互いに互いを求め合い――カーテンの隙間から朝日が差し込んだことにも気づいたが無視し、泥のように眠って今に至る。
　さゆるはじゅんを起こさないようベッドから脱け出した。昨夜着ていた服も下着も、ベッド下に落ちている。苦笑してそれらを拾い上げ、洗濯機に放り込んだ。
　そのまま、シャワールームに向かう。熱めのお湯でようやく意識がしゃっきりした。
　色気がないかな、と思いつつ、ナイトブラとセットのショーツを身に着け、ボリュームネックパーカーを羽織るとチャックを一番上まで引っ張った。それからキッチンで、時間をかけてコーヒーを淹れる。
　コーヒーを運ぶついでに、小さな箱をポケットに突っ込む。ベッドルームに戻ってもまだ、じゅんは寝ていた。
　ベッドテーブルにカップを二つ置き、そっとじゅんの頬に唇を寄せる。
「おはよう、お寝坊さん」
　耳元へと注ぎ込まれた声に、じゅんはようやく身じろぎし、ゆっくり瞬きしながら目を開けた。
「……さゆる」
「コーヒー淹れたよ。飲も？」
　もそもそと起こした上半身に、解いた髪がかかる。綺麗だな、と思いながらさゆるはその身体を見つめた。
「……エッチ」
　さゆるの視線に気づき、じゅんはシーツを胸元まで引き上げた。
「何を今更。昨夜、散々エッチなことをした仲でしょ」
　じゅんが真っ赤になって俯く。可愛いなあと思いながら、さゆるは彼女の髪を掻き上げた。じゅんは気持ちよさそうに目を細める。
「誕生日おめでとう、じゅん」
　パーカーのポケットから、綺麗にラッピングされた箱を取り出し、彼女の前に置いた。
「……開けていい？」
「もちろん」
　じゅんは殊更丁寧な手つきで、包装紙を破かぬように開けていった。中から出てきたのは、黒いレースのチョーカーだ。レース自体はクロッサンドラの花をあしらってあり、チャームにはトパーズがついている。
　どちらも十一月二十七日の誕生花と誕生石だ。
「うわぁ……」
　じゅんが、感嘆の声を上げた。どうやら気に入ってくれたらしい。彼女の服装に合うデザインを探すのが大変で、結局、オーダーメイドで注文してしまったのだった。
「あたしとお揃い。ほら」
　パーカーのチャックを下げると、さゆるの首には寸分違わぬ黒レースのチョーカーがあった。ただし、チャームは水晶だ。
「嬉しい……頑張った甲斐あったあ……」
　どうしても今日休みたかったじゅんは、自分のバースデーイベントを「前夜祭」と称して前倒ししたのだ。結果的に大勢の客から祝われ、売り上げも上々だった。
　じゅんが昨夜積極的だったのは、そのせいもあったろう。
「さゆるってば、年上のスパダリみたい」
「逆にじゅんが十歳も年上だっていうのが信じられない」
　二人は顔を見合わせて、くすりと笑った。
　今日はじゅんの誕生日で日曜日。のんびりだらだらアニメを見て、食べたいものを食べてベッドの上で過ごし、夜はまた愛し合うのだ。

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