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ハッピーバースデー！ １１月☆
11月23日 水曜日
小学五年生というのは、大人の階段を上り始める年頃だ。去年までのようにまるっきりの子どもでもないし、六年生のようにお姉さん・お兄さんでもない。
もう自分は子どもではない――そんな自覚が出来る頃でもある。
「かんなちゃんの誕生日っていつ？」
ある日の帰り道、光村 千恵は、桃井 かんなに尋ねた。
「四月二十九日」
「四月かあ……半年も過ぎちゃってるね……お祝いしたかったのにーっ」
「あと、たった半年だよ」
「……そういう考え方もあるか」
「千恵ちゃんは？」
「え？」
「千恵ちゃんの誕生日」
「じ、十一月二十三日」
「ふうん。もうすぐだね」
「う、うん。あ、ところで、近所に新しいパン屋ができたの、知ってる？」
かんながあまり興味なさそうだったので、千恵は誤魔化すように話を変えた。
それが一か月前のことだ。
元々クラスが違うので共に過ごすことは少ないが、その日以来、忙しくなったらしいかんなと顔を合わせることが、ほとんどなくなってしまった。
今日も今日とて廊下ですれ違っただけで、「おめでとう」の一言もなく、がっかりして一人で帰路についたのだった。
「……まあ、仕方ないよね」
かんなはマイペースな人間だ。彼女に「何かさせる」ことは非常に難しい。つまりは、他人の誕生日に興味がない、ということなのだろうが、それは、
「――なんか、寂しい」
と思ってしまう、千恵である。
溜息をつきつつ、千恵は寄り道しながら帰った。というのは、出かける間際、兄から「今日はゆっくり帰ってくるように」と厳命されていたのだ。
おそらく千恵の誕生パーティの準備をするための時間稼ぎだろうが、サプライズのつもりで全く隠せていないのが微笑ましい。
ともあれ、寝子島図書館――ここなら、寄り道しても叱られない――でたっぷり二時間ほど時間を潰して、辺りがすっかり暗くなってから、千恵は家に帰った。
――パンパンパン！！
玄関を開けると同時に、クラッカーが鳴った。それ自体は予想していたので、どうということはない。千恵が驚いたのは、兄の隣にかんなが立っていたことだ。
「ど、どうして？」
「お兄さんに誘われた」
「！？」
得意げな顔をした兄が、早く上がるようにと言う。急かされるままリビングに入ると、色とりどりの折り紙で作ったチェーンや花が飾ってあった。当然、朝にはなかったものだ。おそらく、かんなも手伝ったのだろう。
「お誕生日おめでとう、千恵ちゃん」
かんなが、テーブルに置いてあった花束を差し出した。
よく見ればそれは、花ではなくキャンディーで作ったブーケだった。一輪だけ、白い菊の花が混ざっている。
「私のお母さんがフラワーデザイナーだから、作り方を聞いたの」
まずは千恵の兄に会って、連絡を取った。当初のイメージでは、千恵の誕生花を中心に様々な花を使う予定であった。
「ストレリチアっていうのが綺麗だからそれにしようと思ったんだけど……」
シーズンから外れている上に、花束というものは高いのである。小学生の小遣いでは、到底買えるものではない。前借するか、貯金を下ろすかとも考えたが、そんなことをすれば千恵が気を使うのが目に見えていた。
「当たり前だよ！ 私のためにそんな！」
「うん。そしたらお母さんがね、菊も誕生花だからって。でも白い菊ってお葬式みたいでしょ？ だから、キャンディーブーケにして、そこに混ぜたらいいって教えてくれて。それなら、私のお小遣いでも十分だからって」
スーパーで激安のキャンディーを買い集め、「NYAN☆DO」で透明なＰＰ袋やリボンを買って包んだ。キャンディーの可愛らしいパッケージが、まるで花のようだ。
「割とうまくできたかなって。結果オーライ？」
「どうしよう……嬉しい。ありがとう！ 大事にする！ 一生の宝物にするね！」
「できたら賞味期限が来る前に食べて」
「ええーっ、無理―っ！」
嬉しくて嬉しくて、涙と笑顔が同時に零れた。
それからしばらくして、両親も帰ってきた。「シルキー」のケーキやピザと一緒に。
かんなは九時頃に、兄が送っていった。ブーケを解いてみてね、と言われたので、もったいない気がしたが、言うとおりにした。すると中から、手書きのバースデーカードが出てきた。
それには、「これからも仲良くしてね」と書かれていた。
小学五年生はもう子どもではない、と千恵は思っている。
けれど、誕生日を祝ってもらうのが無条件に嬉しいぐらいには、まだまだ子どもなのだった。
小学五年生というのは、大人の階段を上り始める年頃だ。去年までのようにまるっきりの子どもでもないし、六年生のようにお姉さん・お兄さんでもない。
もう自分は子どもではない――そんな自覚が出来る頃でもある。
「かんなちゃんの誕生日っていつ？」
ある日の帰り道、光村 千恵は、桃井 かんなに尋ねた。
「四月二十九日」
「四月かあ……半年も過ぎちゃってるね……お祝いしたかったのにーっ」
「あと、たった半年だよ」
「……そういう考え方もあるか」
「千恵ちゃんは？」
「え？」
「千恵ちゃんの誕生日」
「じ、十一月二十三日」
「ふうん。もうすぐだね」
「う、うん。あ、ところで、近所に新しいパン屋ができたの、知ってる？」
かんながあまり興味なさそうだったので、千恵は誤魔化すように話を変えた。
それが一か月前のことだ。
元々クラスが違うので共に過ごすことは少ないが、その日以来、忙しくなったらしいかんなと顔を合わせることが、ほとんどなくなってしまった。
今日も今日とて廊下ですれ違っただけで、「おめでとう」の一言もなく、がっかりして一人で帰路についたのだった。
「……まあ、仕方ないよね」
かんなはマイペースな人間だ。彼女に「何かさせる」ことは非常に難しい。つまりは、他人の誕生日に興味がない、ということなのだろうが、それは、
「――なんか、寂しい」
と思ってしまう、千恵である。
溜息をつきつつ、千恵は寄り道しながら帰った。というのは、出かける間際、兄から「今日はゆっくり帰ってくるように」と厳命されていたのだ。
おそらく千恵の誕生パーティの準備をするための時間稼ぎだろうが、サプライズのつもりで全く隠せていないのが微笑ましい。
ともあれ、寝子島図書館――ここなら、寄り道しても叱られない――でたっぷり二時間ほど時間を潰して、辺りがすっかり暗くなってから、千恵は家に帰った。
――パンパンパン！！
玄関を開けると同時に、クラッカーが鳴った。それ自体は予想していたので、どうということはない。千恵が驚いたのは、兄の隣にかんなが立っていたことだ。
「ど、どうして？」
「お兄さんに誘われた」
「！？」
得意げな顔をした兄が、早く上がるようにと言う。急かされるままリビングに入ると、色とりどりの折り紙で作ったチェーンや花が飾ってあった。当然、朝にはなかったものだ。おそらく、かんなも手伝ったのだろう。
「お誕生日おめでとう、千恵ちゃん」
かんなが、テーブルに置いてあった花束を差し出した。
よく見ればそれは、花ではなくキャンディーで作ったブーケだった。一輪だけ、白い菊の花が混ざっている。
「私のお母さんがフラワーデザイナーだから、作り方を聞いたの」
まずは千恵の兄に会って、連絡を取った。当初のイメージでは、千恵の誕生花を中心に様々な花を使う予定であった。
「ストレリチアっていうのが綺麗だからそれにしようと思ったんだけど……」
シーズンから外れている上に、花束というものは高いのである。小学生の小遣いでは、到底買えるものではない。前借するか、貯金を下ろすかとも考えたが、そんなことをすれば千恵が気を使うのが目に見えていた。
「当たり前だよ！ 私のためにそんな！」
「うん。そしたらお母さんがね、菊も誕生花だからって。でも白い菊ってお葬式みたいでしょ？ だから、キャンディーブーケにして、そこに混ぜたらいいって教えてくれて。それなら、私のお小遣いでも十分だからって」
スーパーで激安のキャンディーを買い集め、「NYAN☆DO」で透明なＰＰ袋やリボンを買って包んだ。キャンディーの可愛らしいパッケージが、まるで花のようだ。
「割とうまくできたかなって。結果オーライ？」
「どうしよう……嬉しい。ありがとう！ 大事にする！ 一生の宝物にするね！」
「できたら賞味期限が来る前に食べて」
「ええーっ、無理―っ！」
嬉しくて嬉しくて、涙と笑顔が同時に零れた。
それからしばらくして、両親も帰ってきた。「シルキー」のケーキやピザと一緒に。
かんなは九時頃に、兄が送っていった。ブーケを解いてみてね、と言われたので、もったいない気がしたが、言うとおりにした。すると中から、手書きのバースデーカードが出てきた。
それには、「これからも仲良くしてね」と書かれていた。
小学五年生はもう子どもではない、と千恵は思っている。
けれど、誕生日を祝ってもらうのが無条件に嬉しいぐらいには、まだまだ子どもなのだった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年03月12日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年03月19日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年03月19日 11時00分
