ハッピーバースデー！　１１月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　１１月☆

　　　11月20日　日曜日

　ふわふわとした心地よい世界からゆっくりと浮上する。一度目が覚めた気がするが、瞼を閉じたらまた寝てしまった。
　次に目が覚めたときは、もう昼前だった。
「嘘……」
　水谷真優理は呆然とした。いくら疲れていたとはいえ、おかげで体力が回復したとはいえ、半日も寝て過ごすなんて、損した気分になる。
　真優理は星ヶ丘の超高級ホテル「ステッラ・デッラ・コリーナ」で、コンシェルジュとして働いている。幸いにして転職してこの方、職場では高評価を頂いているが、その反動か、家ではずぼらを極めているのだ。
　欠伸をしながら部屋を出て、シャワールームへ向かう。
　熱いシャワーを浴びて、ようやく頭がはっきりしてきた。こうなったら今日は一日、家でゴロゴロしようと決める。二度寝だって三度寝だってしてやる、と思ったとき、お腹が小さく鳴った。
　十二時間近く寝ていたのだから当然だ。まずは何かお腹に入れようと、ルームウェアに着替えてリビングに入った真優理は、目を丸くした。
「真優理さん、お誕生日おめでとう」
　同居人の従妹・青山絢が、おはようの挨拶より先に言ったのは、その言葉だった。
「え？　え、あ……」
　慌ててカレンダーに目をやる。真優理の誕生日は、今日ではない。正確には三日前の十七日だ。
「いつの間に……」
　――過ぎていたのか、と呟く。
　誕生日そのものを喜ぶような年ではないが、なかったことにしたい年齢でもない。だがこの一週間はとにかく忙しくて、すっかり失念していた。
　当日も確か、日付が変わる直前に帰ってきたはずだ。シャワーを浴びてすぐに寝て、六時には起きて出かけたのを覚えている。まだ絢は寝ていた――というより、一週間、彼女の顔をまともに見ていないことに、今更ながら気付く。
「座って、真優理さん」
「あ、うん」
　テーブルの上には、スパゲティ、豚肉の炒め物、ポタージュ、フルーツタルトと紅茶が置かれている。
　二人は料理を挟んで座った。
「凄いわね。絢ちゃんが作ったの？」
「もうちょっとがっつり系でもいいかと思ったんだけど、真優理さん、疲れてるでしょ？　一応、疲労回復メニューがいいかなって」
「いい、いい！　すごくいい！　嬉しい！」
　メニューが、ではない。絢のその気遣いに真優理は感激していた。
「これ、プレゼント」
　渡された包みを開けると、中から出てきたのはデフォルメされた絢のイラストのアクリルスタンドだった。
「可愛い……」
　あまりの可愛らしさに、真優理は目に涙すら浮かべている。
　これでいつでも一緒にいられる、と真優理は思った。通勤の短い時間、絢の出ているＰＶを眺めることで彼女に会えない寂しさを埋めていた。――逆に言えば、そのせいでまともに顔を合わせていないことに気づかなかったのだが。
「嬉しい……連れて行って、写真撮るわね！」
「それはやめて……」
　絢は顔を赤らめた。最初は写真で作るつもりだったのだが、さすがにそれは恥ずかしすぎてイラストにした。が、他人に見られるとなれば、それもかなり恥ずかしい。
　だがそれでも、真優理には「特別な自分」を持っていてほしかった。
　愛しているから。
　真優理と結ばれたあの夜から、ずっと考えていたことだ。――否、考えないようにしていた。だが、どうしても一夜の過ちにして封じるには生々しすぎ、そして、絢は真優理のことを愛していた。
　そのたった一つの真実を、おそらく真優理は知っている。真優理も同じ思いでいるはずだ。
　だから、今日はその思いを伝えるつもりでいた。

　この日、二人の部屋に新しい写真が加わった。