【チョコっとバトル・クッキーマン編】

「さー、大暴れタイムだ！！」
「っしゃー暴れんで！！」
　吉住 獅百合＆鹿園 斐美、気合１００％！　ずずん、ずしんと迫りくる巨大チョコクッキーマンへと挑みます。
　全高は２０メートル。幽霊退治映画、ゴーストクリーナーズに出てくるモチモチマンを思い浮かべればいいでしょう。動きは緩慢ですけれど、巨体から繰り出されるパンチは建物もアトラクションも全てをなぎ倒し、ぶん投げる巨大チョコクッキーはまるで山ひとつを投擲するかのよう。
　というわけでどひゅん！　と飛んでくる巨大クッキー。
「どわーーーっ」
「っぶな！　へぇ、けっこうやるね！」
　クッキーマンは完全にふたりを目標に定めたようです。メリーゴーランドをばきばきばきっと砕きながら、鈍重ながらもおそるべきパワーで突き進んできます。
　斐美はフムんっとそれを見据えて、
「あーいうデカブツには、シロやんのろっこんやな？」
「そだね。さーて、どのくらい縮むかな？」
「最小で3cmくらいまで縮められるんよね。もしそーなったら、シロやんと体格差十倍じゃきかへんし、あんま怖くないなぁ」
「それは盛りすぎ！　いくらあたしがデカイったって、3cmの人から見たあたしならせいぜい五倍くらいだっ」
「スケールでかすぎて、あんまピンと来ないんよな～」
　などとのんびり会話を挟む間に、巨大チョコクッキーがぶおん、どががんとすっ飛んできます。
　ふたりはともに学ぶ古武術の体さばきでもってそれを避け、いなしつつ、退くどころか前へ前へと踏み込みます。
「頼んだでー、シロやん！」
　先陣を切る斐美はすばやい動きで接近すると、クッキーマンの足めがけて寸勁を一撃！　並みの相手なら悶絶して意識を刈り取られているところですけれど、相手は２０メートルの巨人かつクッキーでできておりますもので、あまり効果は見られません。
　とはいえ斐美の役割は、クッキーマンの注意を惹き付けること。
「ほーら、こっちやで！　そんなニブイ動きで、うちを捕らえられるとぶわーーーっ！？」
　どぎゃん！　クッキーキックがまともに炸裂し、斐美はふっ飛ばされてチョコ迷路の壁に突っ込みました。
「ビビちゃーん！？」
「あいたた。あ、いや案外痛くないねんな、やっぱクッキーやし」
　さっくりしっとりクッキー生地のおかげで大事には至りませんでしたけれど、まあ当たりドコロが悪ければフツーに危険です。
「よっしゃ、もいっちょいくでー！」
　再びパンチをくぐり抜けながらに肉薄し、連打を叩き込みます。
　クッキーマンはうっとおしそうに腕を振り、足を蹴り上げ……と、そこでようやく気づいたようです。
「おっと見つかった？　けどもー遅いっ」
　クッキーマンの足の甲の上、斐美が気を引いている間に乗っかり、拳を押し当てていたのです。時間にしてきっかり３秒！

「小さくなれっ！！」
　ぐぐ、ぐぐぐ。ぐぐぐぐぐん。獅百合のろっこんが、クッキーマンをどんどんどんどん、縮めていきます。
　ぐんぐんぐぐん。
「おお。3cmとまではいかんけど」
「ちょうどイイサイズになったんじゃない？　これ」
　190cmある獅百合よりちょっとだけ大きいくらい。２メートルくらいでしょうか？　１０分の１にまで縮めることができ、ろっこんの効果はバッチリというところ。
　もはや巨大ではない人間サイズとなったクッキーマン、ここからがふたりの本領発揮！
「いくで、こいつが本命やっ！」
　すばやく掴みかかる斐美、古武術を習ってはいますけれど、得意技は柔道による豪快な投げ技です。動きは緩慢なままのクッキーマンの懐へ潜りこむと腕を取り、腰を跳ね上げ一本背負い！
　倒れ込んだところへ、獅百合が追いうち！
「腕一本、いただきっ♪」
　打撃のラッシュから、噛みつき攻撃！　チョコクッキーを捕食し、さくさく食感をチョコの絶妙な甘みにに～んまり。
　抵抗をつづけたチョコクッキーマンも、しばらく攻撃を続けるとあきらめたのか、美味しく食べてね？　といった顔で動きを止めました。
「……なんか、イケナイことしてるよーな気分になってくるんやけど」
「気にしない気にしない。しょせんこの世は弱肉強食なのだー」
　ぱくぱく、ぱくり。ばりばりもぐもぐ、ごっくん！
　結局ふたりはクッキーマンをすっかり平らげ、大満足の大勝利っ！



『──ぴんぽんぱんぽ～ん。ちょこでろろランドは閉園時間を迎えました～。ご来場いただきありがとうございま～す。またのお越しをお待ちしております～、まあーまた開園するかどーかは分かんないけどねえ。それじゃっ、ぱんぽんぴんぽ～ん』



　な～んて放送を、どこか遠くで聞いたような。
「……あれ？」
　倉前 七瀬がはたと気が付けば、シーサイドタウン。群衆ド真ん中。行き交う人々が怪訝そうに、なんだかかわいそうな子を見るような顔つきで、こちらを眺めておりました。
「なんで街の中に……ってチョコまみれー！？」
　チョコブレスを浴びてリタイアとなった七瀬はそのまま、駅前にほうり出されてしまったようです。なんてこったい、さらしもの！
「あ、いや。気にせんといてください！　これはいろいろとあって……」
「あーあ。ちょこでろろランドはあれでけっこうハードだったよねぇ」
　とやってきて、はらり。なんとも紳士に上着を七瀬へかけてくれたのは、
「ウォルターさん！」
　七瀬の慕う、彼でした。
「もしかして、ウォルターさんもあそこにいたとですか？」
「まーねぇ。それよりチョコまみれだねぇ、君」
　ふうむ、と少しばかり考えた後に、ウォルターは七瀬の肩を抱いて、言いました。
「よし。銭湯でもいこっかぁ」
「ええっ？」
「そのままじゃまずいでしょ？　ま、すぐ近くだからさぁ」
「ええっでも、そのなんていうか。いっしょにお風呂入るとですか……！？」
　ずるずるずる。七瀬はウォルターに引きずられ、シーサイドタウンの片隅に消え、あたりに残ったチョコレートの甘い香りもやがて、風にまぎれてどこかへ飛んでいったのでした。