【チョコっとバトル・ドラゴン編（２）】

　チョコドラゴンの機動力たるや、お菓子とは思えないくらいの俊敏さ。
「あおい、危ない！」
「ひゃあ！？」
　八神 修は間一髪、あおいを抱きすくめてダイビング回避！　チョコブレスを避けましたけれど、このまま戦いを続ければいつかどばーっと頭からチョコを浴びてしまうことでしょう。
「よっしゃあ、俺にまかせろ！」
　そう言って飛び出したのは、桜井 ラッセル。ろっこん発動、変身したのは大フクロウ！
（視界をふさいでやるぜ！）
　チョコドラゴンの目の前を横切り、隙を見つけて顔の上に取りつきます。翼を広げて目を覆い、自らの身体で即席目隠し！
　ドラゴンはうっとおしそうに首を振り、やみくもにブレスを噴きますけれど、
（くっ、振り落とされてたまるかよ！）
　人の姿に戻り、パンチ一発。ドラゴンのチョコ角を折ると、ぱくりと口へ放り込みました。甘い、美味い！
「俺が気を引いてる間に、攻撃してくれー！」
「いいぞ、桜井！　よし、俺たちも援護するぞ、あおい」
「おっけー！」
　ラッセルの上げた反撃ののろしを見逃さず、修もすかさず行動へ移ります。す、と手をかざし、
「あそこのポールや柵がちょうど良さそうだな。分解！」
　ろっこんで電灯やらアトラクションの柵やらを細かく分解し、作り出したのはたくさんの先端がとがった槍。
「あおい、頼んだぞ」
「まーかせて！　いっくよー」
　チョコ槍を手に取り、あおいもまたろっこん発動！　オトメらしからぬ馬鹿力を発揮して、
「てええええええいっ！！」
　槍を投擲、どぎゅんっ！！
　ろっこんパワーで投げつけた槍は真っすぐ、すごい勢いで飛翔し、チョコドラゴンの翼をかすめて砕きました。惜しい！
「あーっ、外した！」
「大丈夫だ、あおい。弾はいくらでもあるぞ」
　次々にポールを分解し、チョコ槍増産態勢を築く修。あおいがそれを手に取り、えいや！　そいや！　と投げつけます。
「おわっと、あぶねえ！」
「あっ、ごめーん！」
　慌ててカナリアになって飛び立つラッセル。槍が直撃し、ドラゴンのチョコ顔半分が吹っ飛び、その破片をラッセルはくちばしでキャッチ！
（いいってことよ。美味ぇ！）
　せっせと弾数を用意する修とそれを投擲するあおいの連係プレー、鳥の姿で翻弄するラッセル。あおいは正直ノーコン気味でして、投げた槍が当たるのは五本にひとつといったところですけれど、それでもじわじわとダメージは蓄積しています。
　と、そこへ。
「見つけた！　滴さん、もっと高くジャンプして！」
「あはは、やる気だねえ想花ちゃん」
　駆け込むチョコライオン……の背中には黒白 滴と、月原 想花。
　カナリアのラッセルは羽ばたきながらこくりと可愛らしく首を傾けて、
（黒白……あいつなにやってんだ。俺たちと遊びたかったのか？　まったく……）
　気まぐれな滴にため息ひとつ。それでもいつか、元の彼女に戻ることを願ってやみません。
「それ、じゃーんぷ！」
「いっけええええ！！」
　メリーゴーランドの屋根を蹴り、大きく跳躍したチョコライオンの背中で想花が振りかぶった巨大チョコチュロスロスを、ばき～ん！　叩きつければ、チョコドラゴンのお腹にぽっかり、大穴が開きました。
　あおいがそれを眺めて、
「あれっ、逃げてない？」
「不利と見たか……いや。チョコの身体だし、修復するつもりか？」
　修はラッセル、想花に目くばせで合図を飛ばし、追走を指示します。
　滴にはすこうし、複雑な目線を飛ばして、
「黒白も、来るのか？　これは君が仕掛けたことだと思ったが」
「まあ～ねえ。今日はなんだか、そういう気分なんだよ。うん」
　やっぱり、気まぐれ。修もまた、本来の彼女を取り戻す日まで、とことん付き合ってやるつもりです……それが良きことをともに成すにしろ、悪しきことを止めるにしろ。



「なんだか急に騒がしくなりましたねえ（もぐもぐ）」
「そうね。イベントが始まったみたいだけど（もぐもぐもぐ）」
　もぐもぐもぐもぐもぐ。巫部 紫苑と楡宮 遠海、あれから食べっぱなしです。
　しかしながら園内放送が流れたのを合図にしてか周囲がにわかにやかましくなり、チョコライオンは駆け巡りチョコドラゴンも飛び回り、おまけにずずーん。ずずーん。
「おおきいですねえ（もぐもぐぱくり）」
「あれ、食べられるのかな……？（ぱりぱりもぐもぐ）」
　巨大チョコクッキーマンが遠くに暴れるのを眺めつつ、ふたりはそれでももぐもぐはむはむばりばりごくん。
「あ。おかわりが来たよ（もぐもぐぅ）」
「チョコライオンさん、ごきげんよう♪（もりもりぱくんちょ）」
　びくりとして飛び上がったチョコライオンをパンチとキックで叩き壊し、追いチョコ摂取に余念がないおふたり。見ようによってはいささかコワイ光景ですけれど、だってチョコでできてるんですもん。食べずにはいられません。
「あら？」
　ふと翼の音が聞こえ、空を見上げた紫苑。
　そこに美味しそう～なものを見つけ、にんまりと微笑みます。

「あのチョコトカゲ……じゃなくってドラゴンさん、美味しそうですね♪」
「ほんと。食べがいがありそう！」
　ラッセルや修、あおいの猛攻によって逃走中、先ほどのチョコドラゴンでありました。確かにまあでっかくて、つやつやで美味しそうなチョコレート製ではありますけれど。
「でも空飛んでるし、無理じゃない？」
「チョコでできてるので、チョコを食べないでしょうか？」
「というと……このチョコたちをエサにするってこと？」
「……ちょっと、もったいないでしょうかねえ」
　う～んぱくぱくもぐもぐもぐ、としばし悩んだ末、ふたりは作戦決行することにしました。やはりあの大きなチョコドラゴン、味わってみたい！
　アトラクションとアトラクションの間、適当に開けた空間の真ん中へ、チョコたちをセットアップ。手近な売店から仕入れた新たなチョコメニューをぱくつきながら、ドラゴンが食い付くのを待ちます。
　ドラゴンはしばらくなにかを探すように上空を大きく旋回しておりましたけれど、やがてくるりとこちらを向き、ばっさばっさ。
「きたきた（ぱくり、ぱりぱり）」
「しーっ！　音を立てずに……」
　チョコだまりを見つけたドラゴンは、バトルの痕かあちこちが欠けています。着地すると、その欠けた穴にチョコを補充し埋めようというのか、鼻先でごそごそと探り、ぱくりと板チョコをほおばりました。
「今です♪」
　そこで、紫苑はろっこんを発動し自身と身にまとうもの全てを無音とすると、抜き足差し足。そうっと後ろから近付いて、
「え～いっ」
　ぱかーん！　チョコチュロスで一撃！　まあチョコなのでぽきんと折れてしまいましたけれど、相手もチョコ。ドラゴンの翼は根本からぽきりと折れてしまい、紫苑の手に収まりました。ぱくり、う～んこりゃ絶品！
　すぐさま遠海も参戦！　どかばきどかっ、ぼかすかぼかん。もぐもぐもぐもぐ。
「これは……（ぱくぱくぱくり）」
「これまでのチョコとは違う、この濃密な甘さ！（ぱりぱりもぐもぐ）」
「芳醇な香り、ただ甘いだけではない深いコク……（んもっ、もっもっもっ）」
「これがドラゴンの味わい……！（もぐもぐもぐもぐもぐぅ）」
　すっかり動かなくなったチョコドラゴン。あわれ、もはや捕食されるのみ、でありました。



　ラッセルたちがやってきたのは、その直後。
「あっ、なんだよ。もう全部終わってるじゃん！」
「良かった。ふたりが仕留めてくれたんだな」
　修とあおいは顔を見あわせ、ほっと胸をなでおろします。ドラゴンが復活して戻ってきたら面倒なことになる、と懸念していたのです。
「お～っ、チョコドラゴンをやっつけちゃったかぁ。みんなやるねえ」
　滴はなんだか嬉しそうにぱちぱち、手を叩きます。かたわらの想花はやっぱりフクザツ……けれど一時的にながら、いつか見た本来の表情を浮かべた彼女へ、少しだけ、笑みをもらしました。
「良かったら、みなさんも食べませんか？　と～っても美味しいですよ♪」
「うん、さすがはドラゴン！　って感じ」
　紫苑と遠海が勧めると、
「おう、食う食う！　それにしても、よくコイツを仕留めたなぁ」
「みんなが弱らせてくれたからよ、きっと」
　その後はみんなで、チョコドラゴン試食会。絶妙な甘さと深みの饗宴に一同舌鼓、でありました。