waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371｜リアクション

waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371

＊憧れの先生に誘われて
　柚春とメアリが二人を見つける少し前――。

「ウォルターさんに誘ってもらえて嬉しかです。和のチョコってどんなのがあるんでしょうかね？」
　倉前七瀬は、いつになく上機嫌な様子でそういった。「どんなものを想像します？」話をふれば、傍らのウォルター・B（ブラックウッド）はパンフレットを開く。
「今回は、きなこや抹茶など『和』の素材とのコラボレーションと書いてあるね。興味深い」
　どんな味わいだろうね、とウォルターは穏やかに目を細め、近くに試食として置かれたチョコレートに目を止めた。
「奥のは日本酒入り、手前のは甘酒が練りこんである生チョコらしい。どうだい？」
「おいしそうですね」
　だから試食してみよう、と七瀬は早速１つ手に取り口にした。意外にも甘さが控えめなそれに、二人とも目を丸くする。
「日本酒に使われる酒粕を使っている生チョコ……。大人の味ってこういうんもんかもしれませんね」
　七瀬がお茶を飲みながら感心する。ウォルターは「今日は車に乗らないから」と日本酒入りの物も口にしていた。
「こっちもなかなかのものだよ。日本酒とチョコレートの甘さがよく合っている」
　倉前は２０歳になったらね、とウォルターが言えば、彼は「ですねぇ」と相槌を１つ。しかし、会場入り口付近にある物からこんなに美味しいならば
「他のチョコレートも、益々期待が膨らみますね！」
　と、七瀬は期待に胸を膨らませた。

　ある程度会場を回ったところで、海たち３人がチョコレートの籠を見ていた。だが、それよりも、七瀬が気になったのは、近くにあった漆器……に見せたチョコレートだ。
「このお重、中身も器もチョコでできとるらしいですよ！　本物の漆器にしか見えません」
　七瀬の言葉に頷き、ウォルターも「あっちの籠も凄いけれど、こっちもクオリティーが高い」と僅かに目を見開いている。
　ゆっくり作品を見ながら、七瀬はそれとなくこんなことを聞いてみた。
　その真後ろには、チョコレートや和菓子の材料で作られた日本庭園のジオラマも。七瀬は「石はチョコレートで、苔は抹茶だそうです」とパンフレットを見ながら説明すれば、「この池のは寒天かな？」とウォルターが推測しながら頷く。
「いや、こうしてみるとチョコレートにも和の素材にも可能性があるんだなと思ったよ。まるで……」
　ウォルターが言葉をつづけようとすると、見覚えのある女性が二人、近くにいた。一人は彼の家に仕えるメアリが。その傍らには、教え子の一人である柚春だった。