waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371｜リアクション

waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371

＊右耳だけのピアスに勇気を貰って

（メアリさん、日本文化に興味あるかな？）
　稲積柚春は少し緊張しつつメアリ・エヴァンズをこのイベントに誘っていた。
　本当は想いを寄せるウォルター・Bと出かけたかったのだが、彼は先約があるらしい。その思いを顔に出さず胸の奥に秘め、柚春はメアリと共に会場を訪れた。
　今の不安は、『メアリが日本文化に興味を持っているか否か』である。楽しんでほしいと彼女は心から願っていた。

　そろって会場へ入れば、三味線の軽やかな音色が二人を出迎える。会場を見渡したメアリは眼鏡を正し、優しく目を細める。
「まぁ！　これは胸が躍りますね。日本の食文化は興味深いものばかりですから、こうしてお誘いしてくれたことに感謝しますよ」
　メアリに優しい笑顔でそういわれ、「喜んでもらえてよかった」と柚春は安堵した。
「今回は、和とチョコレートのコラボレーションだそうです。私も楽しみなんですよ」
「ええ。実は私もです。どんなものがあるのか今からたのしみでございますね」
　柚春とメアリはキラキラした目で会場内を歩き始めた。

　柚春は、伝統工芸にそこまで詳しくはないものの、メアリに解りやすいように説明する。それを聞いたメアリは感心したように頷いた。
　さすがにブラックウッド家に勤めるメイドという事もあり、メアリは漆器や焼き物については少しかじっているようで。逆に柚春が彼女から学ぶこともあった。だがそれはそれで互いにいい刺激になる。
　ショーケースの中、いくつものチョコレート製の食器が並び、柚春はその精巧さに思わず感嘆の息を漏らす。
「この焼き物を模したチョコレートも凄いですね」
「そうでございますね……。こちらの焼き物には、野菜メインの前菜が映えるようにおもいます」
　チョコレート製でございますから、果物の方がよろしいでしょう、と楽し気に微笑む。二人はチョコレート製の食器に乗せられた果物を想像し、これはこれで面白いもてなしになりそうだ、と微笑み合った。
　お休みをいただきました、と微笑むメアリだが、その所作は丁寧かつ上品で。「仕草も気配りも完璧で教わりたいことがいっぱいだし、色んな勉強頑張らないとね」と柚春は少しやる気がわいてくる気がする。

　あちこちと作品を見ながら、外国のバレンタインについて柚春がメアリに尋ねたりしていると……、彼女の目にうつったのはウォルターの姿。その傍らには、見覚えのある若者の姿が。
「挨拶だけでも、しておこうかな」
　柚春は、右耳だけにつけたピアスにそっと触れた。