waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371｜リアクション

waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371

＊チョコとイノシシと友達と

「わあ～♪　どのチョコレートも綺麗だねぇ！！　そういえばイノシシってどこだろ？」
「うーん、パンフレットにはチョコレートと『和』のコラボレーションとあるから、イノシシの彫刻とかあるかも？」
「そっかぁ」
　なんてゆる～い会話をしているのは、野々ののこと夢宮瑠奈の仲良しコンビ。ののこに誘われて来た瑠奈は、彼女からもらった手紙の内容を思い出していた。

　――そういえばイベントで『猪口齢糖』って書いてあったっけ？

　そのイノシシという感じからイノシシがでるのではと考えているののこ。勿論瑠奈はその漢字の意味を知っている。だが、寝子島だし、なにかイノシシに纏わる何かがあるかもしれない。
（彫刻とするなら鶴かもしれないけど……）
　なんて考えていると、チョコレート彫刻の実演というイベントが始まった。
「チョコレートの彫刻だって！　何ができるんだろう？」
「面白そう！　行ってみようか？」
　二人で話しながらイベントを見に行くと、小柄なおばあさんが器用にチョコレート彫刻を作っていた。しかもイノシシである。
（本当にイノシシの彫刻あったよ！）
　その事にめんくらう瑠奈の傍ら、ののこが楽し気に声を上げる。
　ややあって艶やかなチョコレートの固まりがイノシシの形となる。二色のチョコペンで目を入れれば、可愛いイノシシも完成だ。
　それを見ながら可愛いね、と言い合った後、二人で甘じょっぱいチョコレートコーティングされたチップスを食べながらぼんやり思う。
（そういえば、最近ゆっくりしていないね。仕事の方も軌道にだいぶ乗ってきたし、卒業したら本格的に本土での活動も始めることになるかなぁ。そうなると、寝子島から離れたりするのかな……）
　なんて考えているうちに、寂しさで胸が苦しくなっている。
「どうしたの？」
　ふいに呼ばれ、声の方を向くとののこが心配そうに瑠奈を見つめていた。
（心配、かけちゃった？）
　瑠奈はののこの言葉を聞き、暫く黙っていたがややあって意を決したかのように口を開く。
「ののこちゃん、いつまでも友達でいてくれる？」
「うん。いつまでも友達だよ？」
　その笑顔と共に放たれた一言に、心の中がじんわりと暖かくなる。
（何を心配していたんだろう？）
　瑠奈は、くすり、と思わず笑った。何も心配することは無いはずなのに……。そして、彼女は、「これ以上考え込むのはやめてイベントを楽しもう！」と切り替えた。
「あっちに、抹茶チョコのタルトがあるんだって。ののこちゃんも食べる？」
「うん！　食べる食べる！　取りに行こう！」
　誘いにのってはしゃぐののこを見ながら、瑠奈は瞳を細めて微笑む。

あたしは寝子島ですごい成長してる。これからもずっと。
だけど、出会ったことはずっと、忘れたくないんだ。
だから今は、ののちゃんと一緒に遊んでる今は。ただの学生を感じている今は……。

「ずっと覚えていたいよね」
　瑠奈は、祈るような思いで呟いた。

「？　瑠奈ちゃん、どうしたの？　早くいこ？」
　不思議に思い振り返ったののこは、瑠奈に手を差し伸べる。瑠奈は小さく頷きその手を取る。