ショコラーデ・コレクション in サロネコ1371｜リアクション

ショコラーデ・コレクション in サロネコ1371

「ショコラーデ・コレクション！　いいね～」
　チョコレートの祭典、ファッションショー！　なんと楽しそうなことだろう。白真白は浮足立って会場へおもむいた。
　といって自らショーに出演するのはいささか気恥ずかしく、遠慮しておくことにする。もっとも、真白ならば大いに喝采を浴びたところだろうが。
「おおお。ゴージャス！」
　観客としてショーを楽しむ。ランウェイには甘い香りが漂い、モデルたちが身につける衣装もチョコレートにちなむ。中にはチョコレートそのものを身にまとう奇抜なものもあり、実に見応えあって楽しめた。
　モデルには顔見知りやクラスメートも混じっていたようだ。よくあんなにも人にあふれたところへ堂々歩いて行けるものだと感心する。
　続いて、アイドルのミニライブとやらを見物した。寝子島ローカルアイドルから素人まで、若い男女が着飾って歌い、激しい振り付けで踊り、そのたび照明はぎらついて会場を照らす。前向きに歌う恋の歌、くじけそうな若者を励ます勇気の歌があたりに満ち満ちて、ギャラリーの弾けんばかりの盛り上がりには、真白もどこか昂揚してくるようだ。
「あんなふうに歌ったり踊ったりできたら、気持ちいいだろうねぇ」
　心が湧き立つ。両脚は自然とタップし、全身がリズムを刻む。
　そんなふうに揺れながら歩いていたら、DJブースを見かけた。なるほどこのあたりはクラブのような空間で、ダンスフロアでは多くの客が踊りに興じている。拙く奇妙に身体をくねらせる者も多いが、それも一興だ。とはいえ中にはプロ級の体さばきを見せる者もあった。
「よーっし、ここで遊んでいこっと♪」
　真白もフロアへと飛びこみ、慣れないステップを踏む。インドアゲーマーには少々敷居が高いが、ノリはいいほうだ。技術はなくともいくらか知識はある。
「そう、ここは『砂の踊り子』のモーションを参考に……」

　某ＴＣＧのレアカードのイラストなど意識して、オリエンタル風味なダンスを披露してみる。ゆらゆらと風のように、水面に揺れるように腰をひねり腕を翻した。近くでおおっ！　と声が上がる。案外とウケが良かった。
「あはは、けっこう楽しいかも♪　よーし、次は『有名な剣士』の妖艶な剣舞を意識して……！」
　ダイナミックなムーブは周囲の目を惹き、真白は一時注目の中心となった。

　満足して汗をかき、休憩のためDJブース脇のドリンクバーのスツールへ腰かける……ドリンクバーといってもファミレスにあるアレではなく、ちゃんとバーテンがいてドリンクをシェイクしてくれるのだ。
　真白は冷えたチョコレートドリンクをひと口、ほっと息をつく。
「ふぁー。楽しいし、ドリンクも美味しいし、サイコー！」
「あら。楽しんでくれてるみたいで良かったわ」
　ふと声をかけられる。隣りのスツールに座った長身の女性を見て、真白はあっと声を発した。

「桜栄理事長……元理事長だー！？」
　相も変わらず自信に満ちた微笑みを浮かべる、桜栄あずさだった。言わずと知れた、このイベントの仕掛け人である。
「戻ってきたんですねー」
「ええ、久しぶりにね」
「今まで、どうしてたんですか？」
「世界中を旅してたの。あちこちの教育現場を回ったりしてね」
　真白の、というより寝子高生として彼女と関わったことのある大部分の印象はおそらく、ちゃらんぽらんで好き放題をやらかす傲慢にして生徒思いでもあり、あれこれと世話を焼くも当の生徒らの顔も名前も覚えていなかったり……という、まあ慕われる人柄ではあったがとかく破天荒な人物でもあった。
　それが今ではどこか穏やかに落ち着いて、一本芯が通ったようにも見えた。帰国するなりこのような大規模イベントを企画するあたり豪胆さは変わらずだが、その内容にも細部の緻密や繊細さが見て取れる。今にしても会場の温度感を視察しにきたようで、以前には見られなかった気配りだ。
　いろいろと経験してきたんだろうな、と真白は感心する。
　チョコドリンクを飲み干し、真白は言った。
「踊りましょーか！」
「あら、私と？」
「うんうん。せっかくだし」
「ふふん、いいわね。せっかくだものね」
　にかっ、と笑い合う。そんなところは未だ少女のように若々しい。
　思いのほかキレのいい真白のステップに、あずさも対抗して腰をくねらせる。二人はしばし、ダンスフロアの注目を独占した。