ショコラーデ・コレクション in サロネコ1371｜リアクション

ショコラーデ・コレクション in サロネコ1371

「……照れちゃうね」
　七夜あおいははにかんだ。ほんのりと桜色の頬をつつきたくなるが、ぐっとこらえる。赤ん坊のような扱いはこの場にふさわしくない。
　あらたまって姿勢を正し、八神修はひとつせき払い。
「良く似合ってるよ、あおい」
「本当？　良かった～。こんな素敵な服、緊張しちゃって」
「あおいのために用意したんだ、遠慮することはないさ。着てくれて嬉しいよ」
　彼女からショコラーデ・コレクションへの誘いがあってすぐ、修は躊躇いなく行動を開始した。彼女が身にまとうべき一着を、自ら用意したのだ。
　テーマは『勇気の一歩』と定めた。淡いチョコレート色の、エレガントなドレープを幾重にも施したドレスは、まだ幼さも残るあおいの佇まいをまるで淑女のそれに仕立ててくれた。
　修もまたビター色のスーツを着こなし、二人の華麗なる変身は完了した。
「さあ、行こうか」
「う、うん。修くんも来てくれるでしょ？」
「あおいが望むなら」
　差し出した手に、あおいの手のひらが重ねられる。
　ショコラーデ・コレクション。なりたい自分になれるひと時。二人は少し、大人になる。

　壇上においては修があおいをエスコートするのだ。
　はじめ、修は自分もステージに上がろうとは考えていなかった。揃いの衣装は用意したが、あくまで主役は彼女だ。自分はその引き立て役に徹すればいい。それでも彼女に請われれば、拒むことはない。
　修の腕に手をあずけたあおいとともに、ランウェイを歩む。
「うわぁ。すごい人……！　ステージも派手だね」
「ああ。でもさっきより緊張はほぐれたんじゃないか？」
「うん、なんだかちょっと、楽しくなってきちゃったかも♪」
　ファッションショーとはいえ、なりたい自分になれるのがショコラーデ・コレクションだ。何も形式ばって歩く必要はない。
　あおいの足取りは自然、弾んだ。彼女らしく快活に、飾らず自分のままに。修も彼女のペースに合わせて進む。
　ああ。なんとまばゆい。照明が壁から天井から床からまたたいて、二人の目の前には光の道が開けていた。これが進むべき道。明朗で輝ける未来を示すかのようだ。
「歩くだけでいいのかな。どうしよう、踊っちゃう？」
「いいね。合わせる」
　映画かドラマの見様見真似で、ちょっと拙いが彼女らしくステップを踏む。修は貴族のような優雅な足さばきでそれに応える。
　ギャラリーからほう、とため息。拍手に歓声。祝福の声が、二人へと降り注いだ。

　ショーを下りると、少し小腹が空いてきた。
「向こうの物販コーナーであれこれ買って、ダンスフロアで食べよう」
「うん。私、チョコシューが食べたいな！」
　両手いっぱいに買い込み、エレクトロハウスに湧くフロア脇のベンチに腰を据える。
　拳大ほどに大きなチョコがけシュークリームを、あおいは大口を開けて頬張る。
「んん～～～！　外はザクザクで歯ごたえある生地で、中はトロトロチョコクリーム。美味しい～」
「美味そうだな。俺にもひと口」
「ん、いいよ、はいっ」
　横合いからあおいの手の中のシュークリームをひと口かじる。なるほどこれは、あおいの満点笑顔もうなずける。
　修はいくつも買ったチョコレートの中からウィスキーボンボンを開け、口の中へ放り込む。
「ああ、これは良い香りだ。甘さもちょうどいい」
「どれどれ？　私もひと口っ」
「あ」
　以前に神魂の影響で酔いに酔っぱらった彼女を思い出して慌てるも、まあさすがにチョコ一つであそこまで酔うまい。
「ふわ～！　何だかぽかぽかしてきたよ」
「ああ、俺もだ」
　アルコール0.24gを中和するように、コーヒーを含む。チョコレートの甘味は深煎りコーヒーの苦味とよくマッチした。
　フロアを満たす重低音が腹に響く。
「そういえば、手紙にマカロンサンドを作りたいって書いてたね」
「あ、うん！　一度挑戦してみたいなぁって。でも難しいよね？」
「努力すれば作れるようになるさ。あおいは今までにも、それを証明してきたんだから」
　入学したてのあおいから見れば、今の上達ぶりに目を見張るだろう。本人的にはまだまだ納得がいかない様子だが、彼女がどれほどに努力をしてきたか、修は実感として知っている。
　だから応援したいと思うし、努力する彼女を見つめるたび、愛おしくなる。
「俺はいつも見てるよ。また一緒に頑張ろう」
「ん……そうだね♪」

　心地良いフューチャーポップがフロアを満たしてゆく。
　二人の肩も揺れ続け、触れ合い続ける。

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ショコラーデ・コレクション in サロネコ1371

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